第二話 命削の正体
フォーガス大佐に煙たがられるように部屋を出されたミストリアは、足音を大きく鳴らし立腹した様子で本部の廊下を歩いていた。
そんなミストリアはふと脇にあるショーケースに目線を送る。
ガラス張りの中に飾られているのは、顔くらいの大きさで石灰化し腐食したナニカ。
その正体は、アルツフォネア
当時の帝国研究科は
「アマルフィの機械」と名づけられたこの
そんな未解明の品を立ち止まり眺めていると、ミストリアの耳に付いている長距離無線通信機、通称「PNDR《パンドラ》」がピピッと音を鳴らす。
「お呼びだよ。
「わっ!? いつから居たの……?」
「ふっふーん。それはミストリアがプンプン歩いてる時からよ」
「声かけてよ……」
アマルフィの機械を呆然と見つめていたミストリアの気を戻したその少女も、ヨドニス同様研究科の白衣に身を纏っている。
今の帝国軍部に
「出撃が終わったら研究室に行くわ。少し待ってて、ロコ」
「はーい」
金色のショートヘアに手ぐしを通すロコにミストリアは慌ただしくそう告げると、白銀の頭髪を揺らし指令室へと向かった。
指令室とは、命削小隊へ敵の位置や戦況を伝える
そんな部屋に一つある席へと腰を下ろしたミストリアは、さっそく「PNDR《パンドラ》」で交信をとる。
モニターに目をやると、ミストリアが担当する西部第六防衛戦線・命削N《ノトス》小隊に属する隊員15名のコードネームと、
「ジャッジメンターよりN《ノトス》小隊各位。起動異常なし。聞こえますか」
『N《ノトス》小隊リーダーN《ノトス》よりジャッジメンター。聞こえます』
その力の全てが解明された訳では無い「宇宙聖遺物の
他国にはない技術がこの帝国にはある。
宇宙聖遺物争奪戦を勝ち抜いたこの帝国には。
戦死者ゼロを誇るこの帝国には。
「本日も生還という目的を忘れずに戦ってくださいね」
戦死者ゼロを謳う戦場に、兵器に優しく「生還」という言葉をかけるのは相応しくない。しかしミストリアはそう声をかけた。
無人の戦場で戦う人型戦闘兵器。
帝国軍が
『戦争奴隷が数匹消えたところで何も無いっていうのにありがとうございます。
皮肉混じりの返答が、ミストリアの心を刺した。
レヴィに圧倒されている帝国の切り札――
否、人類最後の一手。
九十五の行政区からなる帝国安全区域の外、帝国最西端にある戦争犯罪の屑箱こと旧ノーフカロタ公国の土地「変事戦線地区」に閉じ込められた戦争奴隷達の子孫。
本部のある第一区から三百キロ離れた対レヴィ防衛戦線で生きる彼らを人は皆
人型戦闘兵器
「
◇◇
遡ること五十年前、公歴十二年。
その年、
そんな帝国に面する西の隣国「ノーフカロタ公国」は、日々大国に摂取される国がある中、侵略ではなく防衛のみを目的とした構成員百名からなる二つの中隊を保有し、国土二平方キロメートルという小国でありながらも確かに強く在り続けた国家だった。
しかしノーフカロタ公国はその節、繰り返される戦争により、限られた土地から眼を埋め尽くすほどに育っていた農作物や、鼻腔を突き抜ける鋭い緑の匂いが消え失せると、急激な食糧難による危急存亡の秋を迎えていた。
つまるところ、アルツフォネア帝国はノーフカロタの状況を踏まえ、隣国の好で血を流さず国を譲渡されてやろうという提案だった。
そして間もなく、その選択が後世にまで続く「呪い」になる事をデンモルトはまだ知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます