病み村の名医(3)
「はーい、大きく口を開けてー。苦くなーい、苦くなーい。はい、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
最後の子供に薬を飲ませ終わると、私は大きく深呼吸をした。
「先生、うちの子は大丈夫なんですか?」
「はい! あとは体力が回復するまで、休むだけです。1日安静にしていれば、すぐに良くなりますよ」
「先生、本当にありがとうございます」
「いえいえ、これが私の仕事ですから」
私は頭を掻きながら、笑顔で返事をした。
「ビルス先生、原因は何だったんでしょうか?」
「あー、原因はコレですね」
私は一枚の写真を親御さんに見せた。
「わぁ! きれいな魚だ」
いつの間にか 近くにいたラックが私の背中から写真をのぞき込む。
「この魚はコドクウオと言って、生きている間はなんの害もないんですけど、死んだ後に、体内に貯めている毒を放出させる迷惑な奴なんですよ。この地域には生息していない魚なんですが、どうやら迷い込んでしまったみたいです。普段はもっと寒いところに生息している魚ですから、今日の暑さにやられて死んでしまい、このような病が流行ったんだと思います。赤く腫れていた部分も、子供たちは川遊びの時に全身が、サリーさんは水汲みの時に肘から先が水に触れてしまったのが原因ですね」
「へー、こんなにきれいな魚にも毒があるんですね」
「そうなんですよ、外見だけじゃ判断できないこともあるということですね」
こうして、村の子供たちとサリーさんを苦しめた病はあっさりと解決してしまった。
その後、私が治療の後片付けしていると、元気になった子供たちと、その親御さんたちが近づいてきた。
「ビルスせんせー、僕たちを助けてくれてありがとう! 」
「ビルスせんせーがいれば、病気なんて怖くないよ。だって、せんせーがなんでも治してくれるんだから」
「せんせーは名医ってやつなんだよ。私のお母さんが言ってた!」
この声を聞くだけで、体調がよくなったことが分かる。病み上がりとはとても思えない元気だが、それは薬が効いている証拠でもある。今回は素直に喜ぶとしよう。
「みんな元気になってよかったです。今日はお父さんお母さんの言うことを聞いて、しっかり寝るんですよ」
「「はー---い!!」」
今日1番の返事をした子供たちは親に連れられて、それぞれの家へ帰っていった。
そして、最後に残ったのは八百屋のサリーさんであった。
「先生、本当にありがとね~。今回ばかりはダメかと思ったけど、流石は村一番のお医者さんだね~」
「まあ、この村は私しか医者はいないですからね」
「今度、たくさん野菜を持っていくから、楽しみにしておくんだよ」
サリーさんはいつものニコニコした表情でそう言った。
「それにしても先生、よく薬なんて持ってたわね~。この魚は普通この地域にはいない魚なんでしょう? それが無ければ、もっとひどいことになってたかもしれないと思うと、本当に先生には感謝しかないわ~」
「……医者というのは万が一に備えて、いろんな薬を持っているものですよ」
私は笑顔でそう答えた。
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