ケース5 卜部と李偉の会話
繁華街の中にある小さな公園のベンチで卜部は鳩に餌を投げていた。
人懐こい顔をした鳩が卜部の足元で餌を啄んでいる。
突如人に慣れた都会の鳩達が何かの気配を察知して一斉に飛び立ってしまった。
「随分早い呼び出しだな。仕事の依頼ではないんだろう……?」
卜部が顔を上げると黒いスーツに身を包んだ李偉が立っていた。
「聞きたいことがある」
卜部は袋の中身を全てばらまいて立ち上がった。すると再びどこからともなく鳩が集まってくる。
「藤三郎に中村のことを教えた奴は誰だ……?」
李偉はほんの一瞬顔を曇らせた。
「どうしてそんな事を聞く?」
「警察に連れがいる。そいつの話では中村の情報がどこからか漏れていたそうだ。俺は漏洩元を探している」
卜部の放つ尋常ならざる気配に再び鳩達は飛び去った。
李偉は深い溜め息をついてから話し始めた。
「最初に断っておくが、俺も直接は知らない。ある日突然電話がかかってきた。そいつは藤三郎の実の息子が警察に情報を売ったと言っていた」
「最初は藤三郎も信じなかった。そんな危険を息子が犯す利益はなにもない。どうやってこの番号を知ったかということの方が重大だった……」
「数日後またそいつからまた電話がかかってきた。中村が敵対勢力の組やマフィアにも情報を流しているという旨の電話だった」
「それから数日後だ。警察が取引先に張っていた。明らかに情報が漏れていた。そこで藤三郎は直々にそいつと電話で話をした」
李偉はここでため息をついた。
「俺も最初は藤三郎の被害妄想だと思っていたんだが……」
「そいつが言うには、組織の情報をリークしなければ家族は恐ろしい目に遭うと中村を脅迫したということだった。中村を殺さなければ組織の情報は垂れ流され続けると……」
「中村を殺すと卜部という男が現れるから、その男に気を付けたほうが良いとも言ったらしい……」
それを聞いた卜部の目の色が変わった。
低い声で李偉に問いかける。
「そいつ名前は名乗ったのか……?」
李偉は首を横に振った。
「そいつはただ、自分は友達だと言っていた。男か女かもわからない奇妙な声だった」
卜部はしばらく黙ってから、そうかと小さくつぶやき李偉に礼を言ってその場を去ろうとした。
「待て卜部」
李偉の声で卜部は振り向く。
「奴はやめておけ。俺の勘がそう言ってる。あいつからは得体が知れない嫌な感じがした。今でも電話口の声を思い出すと悪寒が走る」
「忠告感謝する」
卜部はそれだけ言うと雑踏の中に姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます