ケース5 旧友㉜

 

「助けたつもりはない」

 

 李偉は短くはっきりと言い放った。かなめには李偉の表情からその心情を推し量ることができない。

 

 銃を持った相手を前に自然と体に力が入る。

 

 

「さっきから連絡があった。耄碌した藤三郎から情報が漏れるようなことがあるなら、その前に始末しろと……」

 

 

「ほう……それで俺たちも一緒に始末しようってわけか……」

 

 

 卜部は姿勢を低くして身構えた。

 

 

 それを見た李偉は眉間にしわを寄せる。

 

 

「何を言ってる? お前たちが組織の情報を何か知ってるのか?」

 

 

 わからない……といった様子で李偉が卜部を見据える。

 

 それを見た卜部は声をだして笑った。

 

 

「ははは……そうか。そりゃそうだ……確かに俺たちは何も知らん」 

 

 

「ならば殺す必要はない。行け。後始末も俺の仕事だ」

 

 

 李偉は銃口を天井に向けて顎で扉をさした。

 

 

「行くぞ亀。どうやら無事に帰れるらしい」

 

 それを聞いたかなめは力が抜けて大きなため息をつくと卜部のとなりにふらふらと歩いていった。

 

「あ……亀じゃありません。かなめです」

 

 疲れ切った表情で卜部を見上げて思い出したようにかなめは言う。

 

 卜部はその様子を見てふふと鼻で笑った。

 

 

「おい」

 

 

 李偉はすれ違いざまに卜部を呼び止める。

 

 卜部はチラリと李偉に目をやった。

 

 

「卜部と言ったな。お前のお陰で仲間は死なずにすんだ。礼を言う」

 

 

「言ったはずだ。お前は最後まで疑心暗鬼に憑かれなかった。それだけのことだ」

 

 

 かなめは李偉の表情が一瞬だけふっと和らいだ気がした。

 

 

「受け取れ。何かあったら力になってやる。この一件が片付いたら独立するつもりだ。でかい金が入ったんでな」

 

 李偉はそう言って一枚のカードを卜部に手渡した。かなめが覗き込むとそれは番号が書かれただけのひどく簡素な名刺のようだった。

 

 

 卜部は眉をひそめてカードを見つめると、それをポケットに仕舞って言った。

 

 

「お前名前は?」

 

「李偉だ」

 

「そうか。お前の方こそ、俺が必要にならなければいいがな」

 

 卜部はそう言ってニヤリと笑うとかなめを連れて部屋をあとにした。

 

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