ケース5 旧友㉙
結界の外から差し入れられる赤く燃えた灰掻きが藤三郎の肉を焼く。
悲痛な叫び、肉の焼ける音、タンパク質の焦げる特有の臭い、鬼どもの笑い声、それらが混ざり合い部屋の中を狂気一色に染め上げていく。
ひゅーひゅーと痛みに喘ぎながら藤三郎は涙と涎を垂らして虚空を見つめた。
その視線に割り込むように中村が藤三郎を覗き込む。
「ちゃんと見えてるんだろ……? 俺を無視するな……無感情のフリで逃げ切れると思うなよ……?」
藤三郎は目に敵意と恨みを込めて中村を睨み返す。
「結界に入れぬ貴様など……ちまちまと嬲るのが関の山じゃ……」
中村の目が暗く濁り、藤三郎の口に灰掻きが押し込まれた。
口を押さえて長い長い呻き声をあげながら藤三郎が床に横たわる。
痛みと恐怖に震えながら藤三郎は中村を見上げた。
なぜこんな目に……
儂がしていることはその他大勢のしている所業となんら変わらん……!!
どいつもこいつも自分の幸せのために好き勝手生きてるじゃないか……!?
なぜ儂だけこんな目に……
「死にたくなったらいつでもそこから出てくるといい」
中村は暖炉の燃える炭火を灰掻きでかき混ぜながら優しく言う。
「それに、このままいたぶり殺しても結果は同じ。お前の魂は俺たちのモノだ…」
再び赤熱した灰掻きが藤三郎の身を焼いた。
藤三郎の肌にはいたる所に酷い火傷の痕が残っている。
爛れたピンク色の肉から血と薄黄色のリンパ液が滲み、周囲の皮膚には黒い焦げができている。
鼻と口も焼かれ、言葉を発することはおろか、呼吸もままならない。
ひゅーひゅーと浅い呼吸を繰り返し、咳込み、痛みに咽返る。
いつしか全身を脂汗で濡らしながら藤三郎は死を願い始めた。
出ろ逃げろ焼かれるぞ!!
結界から飛び出せ熱いのが来る!!
お前の足は俺のものだ……
お前の目玉は俺のものだ……
お前の内臓をお前に喰わせてやる。
臓物に指を詰めてソーセージを作ろう。
舌を割く痛いぞ……痛いぞ……
このままじゃ駄目だ逃げろそこから出ろ!!
助けは来ない。
誰も信用するな!!
扉だ。
扉に走れ走れ走れ走れ走れ走れ!!
頭の中に響く声は藤三郎の思考をじわじわと歪めていく。
やがて扉が光に変わり、藤三郎は救いを求めて震える手を扉に伸ばした。
「儂を殺してくれ……」
藤三郎が必死で絞り出した言葉に低い男の声が返ってきた。
「中村にお前は殺させない。それに言ったはずだ。お前には死でも生ぬるい……と」
「卜部……戻ってきたのか……」
中村と卜部の視線が藤三郎の上でぶつかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます