ケース5 旧友㉔
「れ、霊媒師……!! 儂を守れ!! こいつを今すぐ始末しろ……!!」
藤三郎は片方の耳を押さえて、残った手を振り回しながら卜部に叫んだ。
「お前は黙ってろ!!」
卜部は藤三郎の
息が出来なくなった藤三郎はうめき声を上げながら卜部を睨みつけた。
そのまま床に突っ伏して両耳を抑えるようにうずくまる。
この期に及んでまだ我が身のみを案じる藤三郎の姿にかなめは再び吐き気を催した。
なぜこの男は謝罪の念を微塵も持つことがないのだろうか?
おそらく生涯に渡ってこの男は他者を否定することで自己を確立してきたのだろう……
どのような時でも我が身だけを顧みて生きてきたのだ。
死んで当然。
そんな暗い想いがかなめの心の深いところでもやと巻き上がった。
それは池の底のへどろを舞い上げる魚の尾。ギラギラと鈍い光を纏った鱗の輝き。
愛する人の命を奪った刃物の閃き。
瞬間、ぶわと背筋が粟立つ。失われたはずの忌まわしい記憶の片鱗にかなめの身体はカタカタと震えた。
卜部は中村を睨みながらも思考は間断なく最適解を手繰り寄せようと回転している。それゆえかなめの微かな変化に卜部は気が付かない。
慎重に選んだ言葉を卜部は吐き出した。
「中村……俺はお前を祓いたくない……」
その言葉で中村の顔から笑みが消えた。
すぅと表情が消えて俯く中村の顔は影に呑まれて見えなくなった。
ぶつぶつと小さく何かをつぶやく中村の声でかなめは我に返った。
判然としないが、その言葉に宿る呪詛は身体中の毛穴を針で突くような鋭い殺意に満ちていた。
お前の……r■▓をk■≒たのは■亞%!!
突如耳元に生暖かい空気のゆらぎを感じてかなめは振り返った。
しかしそこには何もいない。
心臓が痛い。耳鳴りが聞こえる。酷い寒気と目眩がする。
卜部を見るが卜部は中村を睨み全神経を対象に集中していた。
「邪魔するなと言った筈だ……」
中村が顔を上げた。
「その男を寄越せばお前達には手を出さない……」
両目を縫い止めていた糸が音を立てて切れた。
「それともお前は分からないのか……?」
血に濡れた赤い目が見開かれ卜部を悲しげに見据える。片方の目は焼かれて白く濁っていた。
「分かるさ……」
卜部はその目を真っ直ぐに見つめて絞り出すように言った。
中村はゆっくりと首を横に振る。
「お前も大切なものを失えば……俺の気持ちが分かるようになる……」
そう言って中村はかなめを見た。
かなめの心臓がドクンドクンと警告を発する。
「鈍臭いが見込みのある助手。お前にとって唯一女っ気のある話だったな……?」
穏やかな声で中村は言った。
「お前はこの結界内に干渉出来ない。虚仮威しは無駄だ」
そう言う卜部の言葉には有無を言わせない凄みが乗っていた。
「そうだ。その忌々しい結界の中ではな……」
中村がニヤリと口角を吊り上げる。
状況を理解した卜部が慌てて振り返った時には手遅れだった。
そこで卜部が目にしたのは、疑心暗鬼に
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