ケース5 旧友㉑
あの霊媒師の言うことを真に受けるのか?? 殺した数を考えてみろ?? まともに死ねると思ってるの?? 今すぐ奴を撃ち殺せ!! インチキ霊媒師の結界は無意味だったな。窓から飛び出せ!! 逃げるんだ!! この部屋は邪悪よ。呪われてるんだ……死んだほうがマシだわ。死ぬのは怖くない。銃口を咥えて。あの男を殺せ!! 李偉は何をやってるの?? 護衛は皆裏切りったのよ。あの男を信用するな。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
「だまれぇぇええええ!!」
藤三郎の突然の叫び声にかなめは身を固くした。
卜部の影から覗き込むと、男はやせ細った両の手で空を掻き、振り払い、何かを追い払おうと必死になっているのが見えた。
「それを祓ってほしければ俺と血の契約を交わせ。中村のことはその後だ」
卜部は顔色一つ変えずに半狂乱の藤三郎に言い放った。
「黙れ……!! 貴様のような男を信用できるか!!」
あの男は嘘を吐いている。契約したら終わりだ。人生の終わり。終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり。ひひひひひひひ。
「信用しようがしまいが、このまま行けばお前は必ず鬼に取り殺される。俺はお前の生き死になど知ったこっちゃないが、お前が死ねば中村がどこに消えるかわからない。地道に奴を探す手間を省くためにも、契約してくれた方が楽なんだがな……」
卜部はそう言うと手近な椅子にどかりと沈み込んで足を組んだ。かなめは慌てて卜部のすぐ後ろに駆けていく。
「馬鹿者が!! こういう手もあるぞ!!」
そう言って藤三郎は卜部に銃口を向けた。
「どうせ死ぬなら貴様を殺す!! 殺されたくなければこいつらを今すぐ消せ!!」
「お前、自分が死んだあとのことを考えたことがあるか?」
卜部は残酷な笑みを見せた。
「なんだと……!?」
藤三郎の表情が歪む。
「お前が殺した人間達はお前が死ぬのをずっと待ってる。ひとつ見せてやろうか……」
卜部はそう言うなり胸のベルトからナイフを抜いて親指の腹に押し当てた。
卜部は手を伸ばし、親指の傷から血を絞り出す。
ぽたぽたと滴り落ちた血が床に小さな血溜まりを作った。
「うわぁああぁあ……!!」
藤三郎は椅子から立ち上がり壁際まで退いた。
闇の中から裸の痩せこけた鬼がいくつもいくつも現れたからだ。
鬼は真っ白な肌には青黒い血管が浮き上がり、吐き気を催すような生臭い臭いを放っていた。
真っ黒な目には悪意が満ち、意地悪に笑う口元には鋭い歯が乱雑に生えていた。
小鬼達は卜部が流した血に集まり、血を舐めようと長い舌を伸ばした。
しかし舌が卜部の血に触れた途端、鬼は叫び声を上げて苦しみながら後ずさった。
「ふん……貴様たちの手に負える代物じゃない。下がれ」
鬼は恨めしそうに卜部を睨みながら闇に消えた。
「
卜部がそうつぶやくと、血がすぅっと床に染み込んで消えた。
ぐちゃ……
どちゃ……
ポタ……ポタ……ポタ……ポタ……
粘着質な水音が部屋に響いた。
直後強烈な血の臭いが部屋に満ちる。
かなめは目の前に広がった光景に震え上がった。
藤三郎を中心に男女を問わない裸の亡者たちが眼球の無い目で藤三郎を見据えて薄笑いを浮かべていた。
彼らは傷だらけで、鼻を削がれ、皮膚が剥がされ、焼け爛れ、内蔵を露出している者までいた。
亡者たちのただの一人として五体が揃っている者はいなかった。
「お前が残虐に殺した者達だ……お前が死ねばお前の魂は彼らのモノだ」
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