ケース5 旧友⑮
田中は李偉の所に戻るなりイライラした口調で尋ねた。
「あのデカブツはどこだ? 脚立の補助を頼みたいんだが」
「本郷のことか?」
李偉は眉をひそめた。
「他にデカブツがいるか?」
田中は言葉の棘を隠そうともしないですかさず答えた。
李偉は妙な胸騒ぎを覚えつつも教えない理由はないので正直に答えた。
「まだ部屋にいるはずだが……」
田中はそうかとつぶやくと、すぐに部屋を出ていった。
李偉は屋敷全体を取り巻く不吉な空気に寒気がした。
それはじゅくじゅくと腐った床を歩くような、危うく、嫌悪に満ちた感覚だった。
そんなことを考えていると、李偉は突然恐怖に見舞われた。
今この屋敷には雇い主を除いて自分しかいないのではないか?
そんな事が脳裏をよぎった。
一人が心細いことなど子供のころより一度たりとも無かった。
それなのに李偉は今、初めて一人が怖いと感じていた。
いっそのこと田中達を探しに行こうかとも思ったが、侵入者への警戒をおろそかにしてもしもの事があってはならないと思いとどまった。
しばらく思案してから李偉はモニタールームに向かうことにした。モニターで二人を確認すれば孤独も紛れるだろう。
李偉がモニタールームに着きたくさん並んだ画面の一つを見ると、ちょうど田中と本郷が件の窓の外で作業しているところだった。
荒い画像の向こうにいる田中と本郷の姿に、思惑通り少し気が紛れた気がした。
コーヒーを片手に画面を眺めていると、ふとおかしなことに気が付いた。
子供が映っている……
見間違いかと思い、李偉は目をこすった。
しかしそこにはやはり子供のような影の姿があった。
その黒い小さな人影が二人の周りをちょろちょろと走り回っているのだ。
小さな人影は時折立ち止まると二人を見つめて肩を震わせているように見える。
しかしおかしなことに二人はそれに全く気づいている様子がなかった。
「おい!! 田中!! 聞こえるか!?」
李偉は慌てて無線で田中に呼びかけた。
「なんだ……い……ま、手が……はな……せ……ない」
途切れ途切れに無線から聞こえる声に李偉の焦燥感は高まる。
「落ち着いてよく聞け? 今お前たちの周りを子供が走り回ってる!!」
李偉は静かにゆっくりと告げた。
「な……んだ? よ……く……きこ……えない」
李偉は再び画面に視線を戻して戦慄した。
そこには脚立の周りにいる無数の黒い子供たちの姿が映し出されていた。
子供たちは手を繋いでぐるぐると脚立の周りを回っている。
「田中!! 今すぐ逃げろ!!」
李偉は無線に向かって叫んだ。
その時突然モニタールームの扉が開かれた。
咄嗟に振り向いた李偉はまたしても息を飲んだ。
そこには田中と一緒にいるはずの本郷が立っていた。
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