ケース5 旧友③
階段を降りた卜部は真っ先に守衛室に向かった。
乱暴に窓を叩いて中の守衛を起こすなり卜部は大きな声で言う。
「おい!! 守衛!! 開けろ!! 監視カメラの映像を見せろ」
守衛の男は無言でドアを開けて卜部とかなめを中に入れると、キョロキョロと周りを見渡して静かにドアを閉めた。
中に入るなり卜部は守衛に断わりもせず、勝手に監視カメラの映像を巻き戻している。
「ここだ……」
そこにはコマ送りのようにぎこちない動きをする男の姿が映し出されていた。
「この人が……?」
かなめは卜部の顔を見た。
「ああ。こいつが中村だ」
卜部は画面を見つめたままつぶやいた。
卜部は再び映像を巻き戻して、中村が現れるシーンを最初から見直した。
コマ送りのようにぎこちない動き。
画面に入るノイズ。
……?
かなめは何か違和感を感じた。
「先生……なにか変です……」
卜部はもう一度をビデオを巻き戻した。
中村が現れる。ぎこちない動きで歩く。
チラリとカメラを見る。
画面にノイズが入る。
巻き戻す。
中村が現れる。カクカクとした動きで歩く。
カメラを見て立ち止まる。
画面にノイズが入る。
「カメラに近付いてきてる……」
かなめのつぶやきを無視して卜部は何度も巻き戻した。
中村はどんどんカメラに近付いて来る。
振り向き、身体ごとカメラに向き直り、一歩、また一歩とカメラに近付いてくる。
怖気だつような不気味な動き。
顔を左右に振りながらカメラに近付いてくる男。
その瞳はいつの間にか真っ黒に塗りつぶされている。
ガリガリと音飛びしながら映し出される乱れた映像。
避けられないその瞬間が訪れるのに備えて、かなめは片目だけを薄く開けて身体をこわばらせた。
すると映像から中村の姿が消えた。
「こl%kj▼dんvp;wPhiぬだxs■のおsがあああああ!!」
激しいハウリング音とともに判然としない叫び声が大音量で守衛室に響いた。
いつも眠たそうでやる気のない守衛も、この時ばかりは驚いて目を見開き、思わず後退りした。
その拍子に後ろの戸棚に置いてあったやかんが落下し激しい音を立てる。
その音にかなめと守衛は再び身体を飛び上がらせた。
「世話になったな。行くぞ亀」
卜部は守衛に礼を言って外に出た。
「かめじゃありません……!! 今のは一体??」
かなめは卜部を追いかけながら言った。
「奴は怨霊に成りかけてる」
卜部は大通りに出てタクシーを拾おうと辺りを見回していた。
「最後の叫び声は何なんですか?」
一台のタクシーが卜部たちの前に止まりドアが開いた。
卜部は振り返ってかなめを見た。
「邪魔するな。そう言ってた……」
それだけ言うとタクシーに乗り込んで卜部は運転手にメモを渡した。
かなめも慌てて中に乗り込む。
「その住所まで頼む」
運転手はメモを見て顔をしかめた。
「ずいぶん遠いね……しかも山の方だよ?」
「かまわん。出してくれ」
卜部の有無を言わさぬ態度に観念したのか、運転手は小さくハイと言って車を発進させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます