ケース4 高橋家の押入れ⑭
卜部がかなめの飲みっぷりを呆気にとられて見ている間に注文した焼鳥が運ばれてきた。
「はいお待ちどーこちらがこころです」
串に刺さった三つのこころ。
ぷりっとした弾力を感じさせる質感と美しいタレの光沢。
そしてやはり炭火焼き鳥といえば香りだった。
焦げたタレと炭火で燻された脂の強烈な香りにかなめは思わずごくりとつばを飲む。
見るとさっそく卜部は串の一本に手を伸ばしていた。
遅れてなるものかとかなめも慌てて串に手を伸ばす。
かなめがこころに噛みつくと熱い肉汁と脂が滴った。
「あちち」
そう言いながらもハフハフと熱さを逃しながら次なる咀嚼にとりかかる。
うまっ……
口の中に広がるタレと脂の絶妙なハーモニーにかなめの頬が幸せの音頭を鳴らす。
「うう〜〜んっ!!」
かなめは机をバンバンと叩いて悶絶した。
「先生!! これ最高ですね!!」
そう言ってかなめが顔を上げると卜部と目があった。
卜部は両手に串を握って三つ目のこころにかじりつくところだった。
「塩も旨いぞ。新鮮ないいハツを使ってるのがわかる」
かなめは頷いて卜部の二刀流に倣った。右にタレ。左に塩である。
焦げた表面の下に甘くジューシーな旨味を隠したネギ間。
旨味と柔らかい歯ごたえの暴力。モモ肉。
コリコリとした食感と溢れる肉汁が生む禁断のアンバランス。砂ずり。
かなめは卜部が食べているキモにチラリと目をやった。
卜部は意地悪な笑みを浮かべて美味そうにキモを頬張っている。
「鶏のレバーって苦手なんですよね……」
そう言いながらも、もしかするとここのレバーは美味しいのではないか? とかなめの直感はささやく。
「一個くださいよ」
気がつくと口から出ていた。
「ダメだ。頼めばいいだろ」
卜部が答えた。
「頼んでやっぱり苦手っだたら困るじゃないですか」
アルコールの回ったかなめはこれしきで引き下がらないのである。
潤んだ目の周りを桃色に染めて、かなめは机に上半身を乗り出した。
それを見た卜部は野生動物に餌でもあげるかのように慎重に串の先に刺さったキモをかなめの方に差し出した。
串の先のキモにかなめがパクリとかじりつく。
「うまぁ……」
かなめは手を上げて叫んだ。
「おかあさーん!! ハイボールとキモおかわり!!」
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