ケース4 高橋家の押入れ⑩
押し入れから出ると一階で聞き耳を立てていた沙織がドタドタと二階に上がってくるのが分かった。
「カズくん!! カズくん!!」
「マああぁマあああああああぁああ……!!」
沙織は涙を流しながら和樹を抱きしめた。
和樹も堰を切ったように大声で泣きながら沙織に抱きついた。
後から二階に上がってきたフミヤも二人を抱きしめ、遅れて輪に加わった。
「もう離さないぞ……!!」
感動の再開に少し目を潤ませながら、かなめは卜部にささやいた。
「良かったですね」
「ふん……どうだかな」
そう言った卜部の目はちっとも笑っていなかった。
「お取り込み中のところ悪いがまだ怪異は終わってない」
卜部のその言葉で夫妻の顔は再び凍りついた。
「どういう意味でしょうか……??」
沙織は消え入りそうな声で卜部に尋ねる。
「そのままの意味だ。身代わりにぬいぐるみを置いてきたが一時しのぎに過ぎない。霊道を閉じなければまたいずれ怪異が現れるだろう」
「そんな……」
卜部の説明に沙織が絶望的な表情を浮かべた。
「今から対処法を教える。だがその前に条件がある……」
「まさか……俺たちをゆするつもりじゃないだろうな!?」
フミヤが立ち上がって卜部を睨みつけた。
「なっ……!! ゆするだなんて!! わたしも先生も命がけで和樹くんを助けに行ったんですよ!!」
かなめは腹が立って思わず立ち上がった。
卜部はそれを制してフミヤの前に立つ。
卜部の鋭い眼に睨まれてフミヤは思わず腰が引けた。
「ふん……アンタがどういう人間か解ってきたよ」
卜部は冷たい笑みを浮かべてクククと喉を鳴らした。
「な……何が言いたいんだ!?」
「安心しろ。アンタが一番心配してる金の話じゃない」
卜部のその言葉を聞いて沙織はフミヤを睨んだ。
「今はお金より和樹のことがいちばん大切でしょ……!?」
「当たり前だろ!! あんな奴の言うことを真に受けるなよ!!」
フミヤが言い返すやいなや沙織が噛み付いた。
「あなたが言うあんな奴に和樹は助けてもらったのよ!!」
フミヤはその言葉に言い返すことはせずに卜部に向き直って言った。
「それで……条件っていうのは?」
「質問に答えてもらう。だがその前にこっちが先だな」
卜部は沙織に抱きついている和樹に近付くと頭に手を置いて言った。
「俺のことを信用できるか?」
「シンヨウって……??」
難しい表情を浮かべながら少し間をおいて和樹は言った。
「嘘つきじゃないって意味だ」
和樹はそれを聞くと表情を明るくしてすぐに頷いた。
「おじさんは助けてくれたから嘘つきじゃないと思う」
「よし。その気持ちのままで俺の目を見ろ」
卜部の目を見つめた和樹は、すぐにとろんとした目をしてすーすーと寝息を立て始めた。
「和樹に何するんだ!!」
フミヤが卜部に向かって声を荒げる。
「大丈夫……寝てるだけよ……」
沙織は和樹の頭を撫でながら静かにそう告げた。
「子供の前でする話じゃないんでな。眠ってもらった」
いつの間にか夜になっていた。
ジーーーーーーーーーーーーー
部屋には蛍光灯から聞こえるノイズがだけが響いていた。
ジーーーーーーーーーーーーー
耐え難い気まずさと沈黙を破って卜部が声を発する。
ジーーーーーーーーーーーーー
かなめはそれと同時に蛍光灯の光が一瞬乱れた気ようながした。
「単刀直入に言う。アンタにこの計画を持ちかけたのは誰だ?」
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