ケース4

ケース4 高橋家の押入れ①

 

「先生。依頼人の方がお見えです」

 

 かなめは観葉植物の裏手に隠された秘密の部屋トイレの扉をノックしながら言った。

 

 

 しばらくすると水の流れる音がして目付きの鋭い男が出てきた。

 

 

「かけてくれ」

 

 

 小さな白い洗面台で手を洗いながら男は言う。

 

 

 依頼人の夫婦は頭を下げると古びた革製のソファに腰掛けた。

 

 

「俺は邪祓師の卜部。こいつは助手の亀」

 

 

「かなめです」

 

 かなめはにっこり微笑むと、お茶を差し出しながらさり気なく訂正する。

 

 

「高橋です。こっちは妻の沙織です」

 

 沙織も小さく頭を下げた。

 

 

 

「それで要件は?」

 

 

 二人は互いの顔を見合わせると沈痛な面持ちで話し始めた。

 

 

 

「四歳になる息子が突然消えたんです……」

 

 

「詳しく聞こうか……」

 

 

 

 

 その日は日曜日でした。妻が同窓会に出かけるということで、私と息子の和樹は家で留守番をしていたんです……

 

 昼過ぎに妻が出かけて、私と和樹は二階の和室で人形遊びやブロックをしていました。

 

 和樹はママっ子なので、手を変え品を変えして気を逸らさないと「ママは? ママは?」と言ってグズりそうになるんです。

 

 

 だから私は一緒におやつを食べたり、おもちゃで遊んだりしてずっと側にいたんですが……

 

 

 

 

 高橋の表情がいっそう暗くなった。

 

 

 

 和室でビデオを見ていると、突然仕事先から電話がかかってきたんです……

 

 

 和樹はビデオに集中していたし、ビデオのボリュームがうるさくて先方の声が聞きとり辛かったので、私は子機を持って部屋の外に出ました。

 

 

 

 十分少々だったと思います。部屋に戻ると和樹がいなくなっていました。

 

 

 あれ? と不思議に思って声をかけても返事はありません。

 

 怖がりな和樹が独りで隠れるとも思えず嫌な予感がしました。

 

 

 

 私は咄嗟に西日が差しこむ窓を見ました。

 

 窓から落ちたのではないかと思ったのです……

 

 

 しかし窓には鍵がかかっていました。

 

 

 

 私は和樹の名前を叫びながら、まず二階を探すことにしました。

 

 和室には押入れとテレビ以外にはおもちゃ箱しかありません。

 

 

 真っ先に押し入れを見ましたがどこにもいません。

 

 

 

 次は隣の寝室です。

 

 タンスや引き出し、クローゼットの中、ベッドの中も下も見ました。

 

 しかしここにも和樹はいません。

 

 

 

 残るは一階です。

 

 しかし一階に降りるには廊下にある階段を使わないといけません。

 

 もちろん電話中に和樹は廊下に出てきてなどいないのです……

 

 

 それでももしかしたらと思い、祈るような気持ちで一階に降りました。

 

 結局……家中探し回っても和樹はどこにもいませんでした…… 

 

 

 

 妻に電話して警察にも連絡しました。

 

 ところが警察には私達夫婦が疑われる始末でした……

 

 虐待して死体を遺棄したんじゃないかって……

 

 

 

 高橋夫妻は震えながら頭を下げて言った。

 

 

「息子を見つけてください……お願いします……」

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