ケース3 旅館③
「さささ! 善は急げです! 先生! かなめちゃん! さっそく出発しましょう!!」
かなめは上機嫌で事務所のロッカーに向かい大きなバッグに着替えを詰めると、洗面所に歯ブラシとタオルを取りに向かった。
「おい!! なんでお前の私物が事務所にあふれてるんだ!?」
卜部もかなめの後を追うようにロッカー、洗面台と順に巡って旅支度を整えていく。
「この前みたいに怪異が家に現れたら事務所に泊まらないといけないじゃないですか!! そのために備えておいたのがこんな形で役に立ってラッキーです!!」
「なんだ泊まらないといけないって!! ホテルでもなんでも泊まればいいだろうが!!」
「怪異に憑かれてるのに独りでホテルなんて怖すぎます!! その点この事務所なら安心です!!」
そう言い終えるとかなめはスーツの上から紺地に白袖のスタジアムジャンパーを羽織りキャップを被って扉の前に立った。準備万端である。
卜部はそんなかなめを恨めしそうに睨んで壁に掛けられたベージュのロングコートを引っ掴んで扉を押し開けた。
三人が雑居ビルを出ると、ハイラックスの助手席から独りの女性が降りてきて深々と頭を下げた。
「卜部先生。この度は水鏡のわがままを聞いてくださりまことにありがとうございます」
女性は背が高くスレンダーでまるでモデルのようだった。それだけでも見惚れるような美人だったが、かなめはその豊満なバストに目が釘付けになった。黒のパンツスーツ姿がそのバストをさらに凶悪なモノにしている……
「はじめまして。
かなめは一抹の不安を振り払うように笑顔で挨拶した。
「申し遅れました。わたくし水鏡の秘書をしております。
「冴木くんはとても優秀な秘書なんだよ! ところでかなめちゃんも気が向いたら僕の助手に……アタタタタ!!」
水鏡がいやらしい表情でそう言いかけると翡翠がヒールの先で水鏡の足を踏んで黙らせた。
「水鏡の無礼をおゆるしください。節操のない豚でまことに申し訳ありません」
かなめはそれを見て吹き出して言った。
「よかった!! 冴木さんとは仲良くなれそうです!!」
「私のことは翡翠とお呼びください」
そう言って翡翠はにっこりと微笑んだ。
「じゃあ翡翠さんで!!」
かなめと翡翠が意気投合しているのをよそに、卜部は荷物をトランクに詰めて車に乗っていた。
「おい!! いつまでやってる!! さっさと出発しろ!!」
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