水鏡案件 その壱

幕前

 洋食屋トミダで大人のお子様ランチを食べる二人の姿があった。邪祓師の卜部と助手のかなめの二人である。

 

 かなめが備え付けられたテレビにふと目をやると、ちょうど霊能者の特集が始まるところだった。

 

「それでは出てきていただきましょう!最強霊能者!水鏡竜司みかがみりゅうじ先生です!!」

 

 拍手と歓声に包まれて、白いスーツに紫のシャツを着た金髪の男が画面に現れた。長い前髪を非対称アシンメトリーに流したいかにもキザな風貌に似合わず、男の頬と腹にはふっくらと肉が付いていた。

 

 男は意気揚々とスタジオに集まった芸能人相手に話し始めた。

 

 

「いいですか皆さん? 人の心の中には湖があります。その湖が荒れればたちまち運気も霊気も低下します」

 

 

「私の中にある湖はまるで鏡のように凪いでいます。どのような時でも心の湖がこのような状態であるように心がけていれば、祓えない悪霊などありません! 運気も上昇します! そもそも悪霊に憑かれることがなくなるんです!」

 

 うんうんと出演者たちは神妙な面持ちで話を聞いていた。それを確認して男は再び話し始める。

 

 

「さらに私の場合、その湖の中に一匹の竜神様が住んでくださっています。その竜神様の力をお借りすれば、心の湖が荒れ果てた方の浄化も可能なんです!!」

 

 

 男がそこまで話すと司会者が大げさな相槌を打ち、会場にどっと拍手が沸き起こった。

 

 

 

 

「なかなか良いこと言いますねー。明鏡止水ってやつですか。ねえ先生!」

 

 かなめはそう言って卜部の方を見た。すると卜部は苦虫を噛み潰したような顔でオムライスを食べながら、画面の中の水鏡竜司を睨みつけていた。

 

「鈴木の奴……調子のいいことをペラペラと……」

 

「えっ!?」

 

「こいつの本名だ。鈴木達也。昔仕事の依頼を受けた」

 

 卜部はそう言うと店長に言ってチャンネルを変えてしまった。

 

 かなめがもう一度画面を見ると、そこには旅番組が映し出されていた。

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