ケース2 プール㉖
「待て」
プールに向かう二人を呼び止めると卜部は小さなラジカセを取り出した。革のバッグからカセットを取り出して慎重にラジカセにセットするとスイッチを入れた。
ガチャリと音がしてテープが回り始める。
静寂に包まれたプールではテープの回るジーという音が嫌に大きく聞こえた。
「なんですかこれ?」
「ラジオ体操第一ぃいいいいいい!!!!」
かなめが尋ねた瞬間、小さラジカセから大音量で聞き慣れたメロディーと声が響き渡った。
巨大な音に驚いたかなめとミサキはビクッと震えて呆気に取られている。
「何をぼうっと突っ立てる!! 水に入る前に体操しろ!!」
「腕を前から上げて のびのびと背伸びの運動から」
ラジカセからは空気を読まない明るい声が聞こえる。
卜部の剣幕と本気で繰り広げられるラジオ体操の気迫に押されて、二人は体操に参加した。はじめは面食らったかなめだったが、体操しているうちに昔卜部が言ったことを思い出してきた。
「ミサキさん! 本気でやってください! これはおまじないみたいなものです!」
「お、おまじない!?」
「そうです! 何十年も繰り返されているおまじないです! 何十年もの長い期間、たくさんの人達に繰り返さるうちに水難に対抗する力を宿してるんです!!」
「そ、そんなことって……」
「信じて!! 信じなきゃただの体操です!! 本気で!! 死ぬ気でやってください!!」
反町ミサキはここまでの間に起こった異常な出来事の数々を思い出し、卜部とかなめを信じることにした。そして本気で体操した。
真夜中のプールで、大の大人三人が本気で体操する光景には異様な迫力があった。これこそが
そんなことをぼんやり考えていると音楽と声が止み、プールにはもとの静寂が戻ってきた。
「よし。これで水が放つ瘴気には多少耐性がついたはずだ。効力のあるうちに行け」
卜部に促されて二人は水際に立った。
恐る恐る片足を浸ける。ぬるりとした水の感触が足先から伝わってくる。生温く纏わりつく不快な感触がしたが、先ほど感じた腐敗したような生臭さは感じなかった。
とうとうかなめとミサキは真っ黒なプールにその身を浸した。
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