第35話 全員集合!
「またですか……私を目覚まし代わりにするの、やめてもらいたいんですが……」
お昼の鐘の音で一度起きたものの二度寝していると、カムラとシーナが森にやってきた。
「そうですよ、ライラ様。無用心すぎます!」
「ご、ごめん……。でも、シーナまで? シートの片付けにカムラが来るのは分かるけど……実は仲よし?」
「ボードゲームの確認のため、シーナには今日も休みにしてもらいました。午後に確認に来られると思っていたんですが……まだここにいるとは思いませんでしたね」
カムラから、誰もいないところで二人して寝るなという苛立ちのオーラを感じる。
そういえば……今日はバケツもないし、シートくらいなら持って戻れたよね。カムラが目覚まし代わりになるから二度寝していたのかな。
「だ、大丈夫よ、カムラ。例のゲームの主要人物以外は、ここに来るという発想は浮かびにくいって説があるから」
「……主要人物、結構いますよね」
「私たちをどうにかしようという人は、いないわよ。ほら、そんなしかめっ面していないで。一緒にここにおいで?」
「え……ええ……?」
「ほら、シーナも!」
「ええ……?」
三人から何言ってるんだお前は、という顔を向けられる。
「なかなかこのメンバーで寝っ転がって空を見る機会なんて、ないじゃない。最初で最後かもしれないし。ヨハン、そっちにつめて。ほらシーナ、私の隣に来て。カムラは端っこね」
「い、いいんですか、ライラ様ぁ。嬉しいです〜!」
確認しつつも、にっこにこでシーナが隣に横になった。
「ライラ様と並んでゴロゴロできるなんて、幸せです〜!」
「ライラ様……お腹すいてないんですか……」
カムラも躊躇しながら横になった。
「ライラはいつも、突拍子もないことを提案するよね……一生振り回されそうだな」
振り回されているのは私だと思うんだけどなー。
「こんなふうにライラ様と一緒に寝られるのも、ヨハネス様のお陰ですね! お二人が仲よくなられて、本当によかったです」
「そうね〜、シーナにも相談にのってもらったしね。一件落着ね!」
カードの内容とか、ミーナも入れてキャッキャと考えていた時期が懐かしいわ。
……最近だけど。とてもそんな気がしない。
「待ってよ、ライラ。なに、僕を落とすための相談をシーナともしていたの?」
しまった……。私って……失言が多すぎね。
「う……えーっと…………」
「ライラ様はヨハネス様に振り向いてもらうために、たくさん考えていたんですよ」
シーナがフォローしてくれたものの、もっと恥ずかしいことになっていますけど!?
「そうか。ライラは可愛いな」
いたたまれない……。やっぱりすぐに戻ればよかったかな。お腹すいたし。
あれ……?
なんか、遠いところから声がする……。
ものすごく聞き覚えがあるような。
「はぁ!? ちょっと待ってよ、何これ! ちょ、なんでいきなり四人で寝ているわけ!? 絶対ライラちゃんでしょ、これ提案したの。ていうか、二人で会うんじゃなかったの、ヨハネス。それなら僕も呼んでよ!」
やっぱりジェラルドか……。セオドアもいるわね。
「さっきまでは二人だったんだよ」
「僕も寝る寝るーって言いたいけど、どっちの隣も嫌だな」
確かに、ヨハンの隣もカムラの隣も嫌でしょうね。……カムラのこと、知っているのかな。名前は知っているようなことを言っていたけど、顔だけで分かるのかしら。
そもそも、シートにもう入れないでしょう。
「来なくていい! 何しに来たんだ、こんなところまで」
「セオドアと話でもしようかと思ったんだよ。昨日のライラちゃんからの助言通りにさ。昼ならいないと思ったんだけどな」
「毎回邪魔してすまないな……遠くからでは気付かなかった」
そりゃ、寝っ転がっていたら気付かないわよね。ベンチもあるし、木々にも遮られている。
「気付かないのは当然よ。でも、残念ながらまだ私たち昼食を食べていなくて、そろそろ行こうかと……」
「うわ! なんですか、この全員集合ってメンバーは!?」
うわー!!!
アンソニーまで来たーーー!!!
もしかしてこの場所、シッチャカメッチャカになる……!?
「なんでアンソニーまで来るのよ」
「あれ、そんなふうに俺のこと呼んでくれるの、初めてですね。愛人にしてくれる気になりました?」
しまった……。つい、内なる声が外に。
「ヨハンに殺されるわよって、言ったでしょうが……」
隣からものすごく冷たい空気が流れてくるから、やめて……。
「それで、なんでこんなところに来たのよ」
「ああ、昨日のライラ様の助言を聞いて、初心に戻りに自然の中に身を浸そうかと思いまして
」
「ライラ、もう誰かの相談にのるの、やめなよ……」
そう言われても、したくてしているわけじゃないのに。
「うわ〜、すごいですね! ライラさん、すみません。お邪魔しますね」
「メ……メルルとリックまで……どうなっているの……」
誰も来ないはずの森に、主要人物が本当に全員集合している……。
リックがすまなそうに謝った。
「食堂で誰の姿も見えないなと思って外に出た時に、アンソニーさんが森へ向かわれるのを、たまたまメルルさんと見かけまして。ジェラルドさんとセオドアさんが昼に森へ行かれることも聞いたので、様子を見に来てしまいました」
そっか、二人がここへ来ることをメルルは知っていて、リックに伝えたのね。
「あ、じゃぁ俺、スケッチブックも持っていますし、皆様の絵でも軽く描きましょうか?」
アンソニーの絵か……それは少し心惹かれるけど……。
「悪いけど、お腹がすいているのよ。そろそろ行きたいわ」
「え、まだ食べていないんですか?」
「ヨハンと寝っ転がっていた時に皆が来たのよ。食べていないのは私たちだけね」
「……それは、大丈夫だったんですか」
「何がよ」
「ヨハネス様と、新境地に行かれている真っ最中だったのではと」
「……っぐ! げほっ」
うわ、気管支に唾が入った!
「……っく、ごめ……気管支に入った……けほっ、苦しっ……、ごめん、咳込む!」
ゲホゲホしている私の背中を、ヨハンがさすってくれる。
「アンソニー……、もう戻れ」
むせている中、ヨハンの冷たい声が聞こえる。
「聞きたくありません? 昨日バッサリと振られたんですよ。どんな境地にもヨハネス様とだけ行かれるらしいですよ」
「お前に言われるまでもなく、ライラがどれだけ僕を好きなのかは理解している」
「それは羨ましいですね。縋りたいのも、ヨハネス様だけだとか。俺は眼中にないらしいです。仲違いしたら言ってくださいね。いつでも割り込みに入ります。今日はもう行きますよ」
アンソニー……余計なことばかり……やっぱり仲よくなっちゃいけない奴だったわね……でも……。
「アンソニー!」
むせながらも、立ち去ろうとするアンソニーに声をかける。
「なんですか、ライラ様」
「あなたの絵だけは、これからも期待しているわ。私たちの絵も、いつかは描いてもらうかもしれない。あなたが解を見つけたらでいいわよ」
「それは光栄です」
恭しく手を前にやって礼をすると、立ち去った。けほけほしながら、やっと落ち着いたところを見てヨハンが呟いた。
「ライラは親切すぎる……」
「そうだよ、ライラちゃん! 昨日僕だって言ったじゃないか、隙が多いって。全然分かってないね」
「悩んでいる子、ほっとけないじゃない。ほらもうお腹はすいているけど、皆でもう一度横になりましょう。カムラ、メルルと代わって。男性陣は芝生の上でいいでしょう」
「あ、それならメルル様、ライラ様の隣へどうぞ」
「ふ、ふぇ!? 様!?」
「ああ、シーナは私のメイドなのよ。ゲー……、あの中には出てこなかったけど」
「そうだったんですか」
しまった、ゲームって言いそうだった。ジェラルドとセオドアがいるんだったわ。
「ライラさんが、様ってつけないでって言っていた理由が今、分かりました……」
そうよね。違和感があるわよね。前の世界でも、学生の間なんて特に様付けなんてされないし。
メルルの元の世界の名前ってなんだろう。ここでは聞けないわね。……まぁ、聞かなくてもいいか。
「セオドア様も、メルル様の隣へどうぞ」
「いや……私はいい」
「……シーナは私の隣の方が落ち着くんでどうぞ」
カムラがフォローして、カムラとシーナは少しだけ私たちと距離をとって座った。
……やっぱり仲よしなのかな。
シートには、ヨハンと私、メルルとセオドアが横になった。
「寂しいよね、リック! 僕たちだけ相手がいなくてさ」
「あ……はは。でも楽しいですよ、皆さんといるの」
「そうだね、僕は半年だからなー」
セオドアの隣にはジェラルド、その隣にリックが手を頭の後ろに組んで横になった。
うん、制服が汚れたら私のせいね。心の中で謝っておこう。
「ボードゲームメンバー、大集合ね!」
「あ、そうですよね、ライラさん。もう準備は万端ですか?」
すぐ隣で寝っ転がるメルルの顔が近くて、少しドキッとする。
「棚にはもう入れてもらったけど、中身は今日の午後にチェックしようと思っていたのよ」
「それなら、チェックも皆ですればいいじゃないか!」
向こうの方から、すかさずジェラルドが言う。
「そうねー、それもいいかもしれないわね。私たちが食べ終わるの、待っていてね」
「もちろんだよ!」
ジェラルドは寝っ転がっていても元気がいいわね。
「あーあ、ライラとの二人の時間が削られていくなぁ」
確かにボードゲームの確認の後も、このメンバーで話すことになりそうだものね。
「いいじゃない、ヨハン。あなたとはずっと一緒なんだから、今しかない皆との時間を大事にしましょう」
「いいこと言うね、ライラちゃん!」
「何度も言うが、ジェラルド――」
「分かってる分かってる、代わりにヨハネスの部屋に入り浸ることにするよ!」
「宣言しやがった……」
――こんなふうに、私たちの楽しい学園生活は幕を開けた。
大好きな人たちと過ごす時間。
それは濃密で、記憶にもあまり残らないほどのなんてことはない会話をしているだけなのに、思い出すだけで幸せになれる時間。
これから始まる、最初で最後の十代の青春。
私は二回目で……ちょっと違うかもしれないけれど、でも十代のようなハッピーな恋もしているんだから、いいわよね?
「幸せそうだね、ライラ」
「ええ、大好きな人の隣で大好きな皆といられるのだから、幸せでしかないわよ」
「そうか。よし、特別にジェラルド、今ならライラにどんな相談事を持ちかけても許そう」
「皆、大集合だけど!? 分かってて言ってるよね」
「当たり前だ」
終わりはいつか、必ずくる。
だから、今を大切に楽しんで生きていこう。
――この日から、私はアンソニーの言い残した『新境地』の言葉でさんざんヨハンにからかわれることになる。『悩殺』とセットで、お墓に入るまでずっと言われ続けそうだ。
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