第34話 森でラブラブ
「お疲れの様子のところ悪いけど、昨日の報告をしていいかしら……」
翌日の、王宮から戻ってきたヨハンと一緒に森へと向かう。
なぜか朝からげっそりしているように見えるわ……なんでだろう。
「ああ、何かあった?」
「図書館でアンソニーとジェラルドに会ったわ。アンソニーにはなぜかお悩み相談をされつつ、口説かれたわね」
「チッ……。あそこまで言ったのに、なんで諦めていないんだ」
「……愛人ならどうかって」
「あいつ、消そうかな……」
冗談に聞こえない……。
「それはやめてあげて。ぶっちゃけて言えば、たぶん仕方ないのよ。あなたの執事さんが異常に強いのと同じで、変態発言をするって決められてしまっているのよ。生まれながらにして」
「そ……それは……なんとも………。いやでも、気に入られなければ口説かれないだろう」
「まぁそうね。お悩み相談に、ちゃんと答えてしまったからかしらね……」
「君は親切だからな……」
森へと近づくにしたがって人の数が減っていく。やはりメルルの言う通り、他の生徒の頭には森へ行くという発想が浮かびにくいのかもしれない。
「それから、ジェラルドと書庫で会ったわ」
「会ってしまったんだな……実は知っているんだけどね」
「え、そうなの?」
「ああ……早朝にジェラルドが僕の部屋に来たんだ……」
あ、だからこんなに疲れているのね。
「相談にのってもらったことと、君から最初で最後だと言われたし、怒らないであげてってさ」
なんか……そこだけ聞くと、ジェラルドの方がヨハンより大人に見えてしまうわね。
「それだけの会話にしては、疲れすぎていない?」
「それだけじゃないんだよ……君と二人にはなれないし、僕を通して君に質問しようかなとか言い出してさ……」
「え、何それ」
「土の曜日の早朝とか日の曜日の早朝とか、君に会うより前の時間に、僕の部屋に入り浸りそうな気がする……もしかしたら夕食後にも来るかもしれない……」
「き……気に入られたの?」
「分からない……ライラ、なんか僕に関してしゃべった?」
「いえ、特には……。あ、ジェラルドよりは王族として割り切れているようには見える、みたいなことをチラッと言ったかな……。ジェラルドは、結構思い悩むタイプな気がするわ」
「そうなのか……。なんでわざわざあいつの質問を、ライラにしてやらなきゃいけないんだ……」
「断らなかったの?」
「いや、ライラに伝えないならそれはそれで、僕の意見を聞くだけで我慢するよとか言っててさ……、扉を開けるまでずっと僕の名前を連呼するし、鬱陶しいったらないよ」
「いいじゃない。半年だけだし付き合ってあげなさいよ。今後のためにも仲よくなって損はないわ。似たような立場だし、得るものもあるわよ」
「そうかもしれないけどさ……」
疲れているわね……。
いったい、どんな会話だったのだろう。詳細が気になるわ。軽く聞いてみようかな。
「どんな話を今日はしたの?」
「えー? 公務の間の息抜きには何をしているかとかさ、僕にも色々聞いてくるんだよな……」
……半年で、私よりヨハンに詳しくなりそうね。
森には相変わらず人がいない。
心地いい風を浴びながら、木陰にヨハンがシートを広げた。
靴を脱いで、のんびりとヨハンの腕の中でくつろぐ。
「平和で最高の時間よね――……」
「本当は、ずっとこれくらい側にいたいんだけどね」
ヨハンが後ろからぎゅぎゅーっと私を抱いてくる。いつまで、この愛情を維持できるのかしらね……。昨日もそんなことを考えた。
「ジェラルドに、ヨハンとこうなるまでは言い寄ってくる男も多かったんじゃないか、みたいなことを昨日聞かれたのよ」
「……待ってよ。そう思わせるようなことを言ったの?」
「え……どんな会話の後だったかな……。アンソニーの愚痴の後だった気もするけど……」
「ああ、それで?」
「それでふと、確かに前世では男性に相談事をされている間になぜか好かれて、告白されるパターンが多かったような気がして……」
「あー、やっぱりそうか……」
なによ、やっぱりって。
「でも結局、最後には私から去っていくのよ。私ってほら、なんでも言い返しちゃうタイプだし可愛げがないじゃない? ね、ほんとにメルルに惹かれてない? あんなタイプがいいなって後から思っちゃわない?」
「……ジェラルドと会話しながら、そんなことを考えていたの?」
「え、うん……まぁ……」
「可愛い、可愛すぎるよ、ライラ。可愛げがありすぎて、僕は毎日まいっている。それにね、王太子には言い返してくれる女の子って周りにいないんだよ」
「あ――……」
「言い返しっていっても文句を言っているわけじゃなくて、絶妙な切り返しだ。柔順にされるより、その方が好かれる。ジェラルドのあれも、半分は僕に対する嫌がらせだよ。そんな相手がいていいよねっていう嫉妬も入っている。僕が予想していた通り、君はあいつにも相当好かれてしまったわけだ」
その言い方だと、私が王太子キラーって感じじゃない……。
「メルル、私ですらキュンキュンときめくんだけどな。むしろ、ときめかない男の方が異常な気さえするくらいに」
「え……もしかして僕よりときめくの?」
「……種類が違うわよ……」
「僕にだけ、ときめいてよ」
そう言ったかと思うと、突然深い――……深いキスが降ってくる。喘ぐように息継ぎをしないと、呼吸ができないほどに。
彼から相談事をされたことは一度もない。一人で悩み一人で抱え、これだという何かを一人で見つけているのかもしれない。
ゲーム内でのメルルとの会話でも、寂しいから側にいたいの一点張りだった。
「ねぇ、ヨハン……」
荒い息を整えながら、少し顔を離して彼に聞く。
「なに?」
「あなたは言いたいこととかないの? 弱音も一切吐かないわよね」
「気付いていないの? いつも君に弱音を吐いているよ」
「ええ?」
「君が冷めやすいタイプでないことを祈っている。ずっと僕に、熱くなっていてよ」
……それは弱音だったのか……。
「君が僕の背中に乗っているのなら、どこまでだって羽ばたけるよ。他の鳥へと飛び移りたくなってしまわないかという不安しか、僕にはない。つまり、いつもそれが不安で仕方がないということだ。僕は臆病で……だからいつも君に、こうやって弱音を吐いている。僕から離れられなくなるようにね」
「あら、私の手綱はあなたが握っているんでしょう? うっかりあなたの上で浮かれて落ちてしまっても、すぐに引っ張りあげてちょうだい」
「君はそうやって、僕を夢中にさせてしまうんだ……」
私の方が夢中だと思うんだけど。
シートの上に抱き合いながら倒れ込むようにして、またキスを交わし――……、腕枕をしてもらいながら、幸せな眠りに落ちていく。
いいよね。だってここ、普通の生徒はきっと来ないもんね……。
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