第26話 カードゲーム
「私とヨハンがこうなったのは、たった二日よ。それまでは、場合によっては婚約破棄される未来もあったかもしれないくらいの関係だったわ」
「え……嘘、だよね……、え、ほんとに……?」
セオドアも、何も言わずとも目を見開いて驚いている。
「……だから、そんなにヨハネスが警戒しているのか……。何をしたの、ライラちゃん」
「私に何があったかは言うつもりはないけど、何をしたのかは教えてあげるわ。それは――、ゲームよ」
そう言って、ベンチに置いた鞄の中からカードを取り出した。
「なんか持っているなと思ったらカードだったのか、ライラ」
「時間があったら、あなたと遊ぼうかと思って持ってきたのよ。……ちゃんと普通のカードゲームよ」
色目を使うのかと聞かれる前に、言っておく。
「ゲーム!? ゲームをして、ヨハネスとこうなったの?」
「そ……うね。そんな側面もあるかもしれないわね。やればなんとなく分かるわよ。仲よくなるには、やっぱりゲームよ! あなたも国に戻ったら婚約者の子とやってみたらどうかしら。四人もいるし、なぜかそこに敷物もあるし、今からやりましょう」
カードゲームを四人でやるのは久しぶりだ。少しウキウキする。大学生の時にボードゲーム愛好会に入っていた時以来かもしれない。
テーブルクロスのような白い敷物を敷いて軽く足の砂をはたき落とすと、中に四人で座る。
「数字ばっかりだね」
「ええ、百までの数字があるわ。『ito』という名前のゲームよ。まずは簡単に……一枚ずつ配るわね。他の人に見せちゃ駄目よ」
カードを切ってから、裏向きに一枚配る。
「で、お題に沿って自分の数を表現するの。例えば『怖いもの』っていうお題で自分が23のカードを持っていたら、学園長からの注意って言ったり、50だったらお化けとか、85とかならノコギリを振り回して追いかけてくる人、とかね。で、少ないと思う人からカードを出して、綺麗に小さい数から全てのカードを出せたら成功。手持ちのカードよりも大きいカードを誰かに出されてしまったら不成功の協力ゲームよ」
本当はライフが削られてゲームは続行だけれど、ヨハンと二人きりでやると思っていたし、ライフカードもテーマカードも作っていない。
こうなるなら、考えて作っておけばよかったわね……。
「まずは、やってみましょう。お題は……そうね、自由時間の過ごし方にしましょうか」
そう言うと、全員が悩み始めた。
……いえ、ヨハンは悩んでいないわね。分かりやすい数字だったのかしら。
「先に言うと、私はダンスの自主レッスンの数字を持っているわ」
「それは低そうだね、ライラちゃん」
「ヨハンは?」
「僕は、ライラとのデートカードかな」
「……それは高そうね」
「私は……空を眺めている、あたりだろうか……」
セオドアの価値観が分からないせいで、さっぱりね。
「僕は、お忍びで町に出たものの目的もなくぶらぶらして終わった、くらいかな」
うーん、60付近かな。
普通に考えれば私が低いんだけど……。
「セオドアにとっての空を眺める幸福度がさっぱり分からないわね。別の過ごし方に変えてみてくれないかしら」
「そうだな……、猫一匹と戯れるあたりか……」
猫、好きなの!?
「それなら私が絶対に低いわね。私から出すわ、17よ」
「低いよ! ライラちゃん、ダンス嫌いなの?」
「さすがにもう飽き飽きよ。ジェラルドとセオドアが微妙ね」
「たぶん僕のが低いよ。出すね。67」
「……よかった。次は私が出そう。73だ」
「思ったより低いのね」
「子猫だったら、もう少し高いとは思うが……」
そんな細かい設定が!?
「じゃ、最後は僕だな。91だよ」
「成功ね。一枚だけだし、それなりに数字もばらけたものね。次は二枚ずつ配るわ。お題は……そうね、嬉しかったこと、またはこうだったら嬉しいなってことにしましょうか」
こうして、私たちはお互いの理解を深めながらカードゲーム『ito』で遊んだ。
「これは確かに面白いし、仲も深まりそうだね」
「ええ。さっきも言ったけど、婚約者の子とやってみたらどうかしら。お題も、行ってみたい場所とか、なりたい生き物とか……仲が深まりそうなお題カードを考えるといいと思うわ。やり方次第で短期間で仲よくなれるわよ。頑張って」
「でも、これだけだと心許ないな。もっと知りたいよ。こんなゲーム知らないけど、どっから持ってきたの?」
「――――う」
どうしようかな……。
「私の発案よ。天から啓示が降りてきたのよ」
「な……何それ……怖いよ」
「文句は天に言ってくれるかしら」
「いや、意味が分からないし。ちょっとヨハネス、教えてよ」
「ライラの言う通りだよ。天の目論見通りに、僕は彼女の虜になった。それだけだよ」
「あーもー、二人の世界をつくらないでほしいな! あーあ、まぁいいや。他のゲームも天の啓示を受けたなら教えてよ」
「そう言われてもね……」
言葉だけでの説明では、難しいのよね……。
「仕方ないな……ライラもやりたがっているみたいだし、販売と流通目的のボードゲーム開発委員会でも立ち上げるか……それならメンバーも固定できるし」
「え! ヨハネス、親切だね。これから大親友として接するよ」
「いらん。その代わり、僕のいないところではライラと話すな」
「なんでそんなに僕を警戒するんだよ……もしかして僕って、ライラちゃんの好みのタイプなの?」
「それはないわ」
「即答!? あーあ、分かってるってば、もう。じゃ、先に戻るよ。行こう、セオドア」
「ああ……。今日は楽しかった。ありがとう」
「ええ、楽しんでもらえたのなら、よかったわ」
しばらく敷物の上にいたから、足の砂も完全に乾いている。パンパンとわずかにまだついていた砂を払いながら、ジェラルドが言った。
「邪魔して悪かったよ。よく分からないお楽しみの続きでも、するといいよ」
ジェラルドの視線の先を追うと……、うわ! 私の足の甲に、ヨハンのキスマークがついたままだわ!!!
まさか私、この状態の足を晒していたの!?
「ああ、言われなくてもそうするさ。またな」
「委員会よろしくね、待ってるよ」
「……ではな……」
ちょ、ちょっと待って!
気付いていないの、私だけだったの!?
ヨハンの大馬鹿者ー!!!
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