第24話 土の曜日
昨日の私たちは酷かった。
大注目の中でヨハンの頬にキスをしたせいで、後からシーナを通して学園長に注意され……ヨハンも言い方がよくなかったと同じく注意されたようだ。
にも関わらず翌日の土の曜日、私たちは反省もせずに手をつないで共生の森へ来ている。
「用意がよすぎるわね……」
遊歩道の脇を突っ切って、更に奥に行ったところにまた遊歩道があり……その脇をまた突っ切ったところが、ここだ。
誰も来ないようなこんなところにベンチがあるのは不思議だけれど、人嫌いの職員さんの意向で設置されたのかもしれない。そんな職員さんの、束の間の休息の場なのかしら。
目の前には芝生が広がっている。
タオルと敷物も置いてあり、横にはなぜか水の入ったバケツと小さめのピッチャーまである。きっと、事前にカムラにでも用意させたのだろう。
「お、僕のやりたいことに気付いてくれた?」
「さすがに、ここまで用意されていたらね……」
なんとかするとは言っていたけど、まさかこんな方法をとるとは……。
ベンチに座って靴を脱ぐと、なぜかヨハンが私の前に跪いた。
「靴下、脱がせてあげるよ」
結構です!!!
「……人に尽くすの、実は好きなの?」
「君に尽くすのが、ね。それに……この身体は、僕だけのものだろう?」
シルクの靴下をするすると脱がしながら、ふくらはぎから下へとわざとらしく触れられ……足の甲をなぞるようにキスを落とされる。
エロい……おかしな気分になりそうだ。
それに、くすぐったくて身じろぎをしてしまう。
青空の下で鳥のさえずりを聞きながら、私たちはいったい何をやっているんだ……。
「まさか、王太子様にこんなことをしてもらえるとは思わなかったわ」
「ああ、すっかり骨抜きにされてしまった。君は、僕が駄目ならセオドアでもいいかって気分で僕を口説いていたらしいけどね」
あ、やっぱり気にしていたのね……。
いつ終わるのだろうと待っていると、いきなり強く吸われた。
「――――っ、ちょっと」
「結構、傷ついたんだよね。眠っている君を襲ってしまおうかと、本気で葛藤した」
「……今は、あなたしか見えていないわよ」
ヨハンなりの仕返しか……。皮膚が薄い箇所のせいか、赤くなっているんだけど。
でも……我ながらあの発言は酷かった。甘んじて受け入れよう。
「じゃ、歩こうか。お手をどうぞ? ライラ」
やっとヨハンが立ち上がり、私へと手を差し出した。
「ええ、ヨハン。歩きましょう」
その手をぎゅっと握りしめて、裸足で芝生を歩く。
メルルに「裸足で芝生を歩きませんか?」と提案されたら「もう歩いたよ」と答えるための行動だろう。
もう、そんな台詞を言わせるような流れにはならないと思うけど……あの会話が成立しなくなるのなら、やっぱり嬉しい。
「ちょっと冷たいけど、気持ちいいわね」
「そうだね。新しい感覚だ」
子供になった気分。
そういえば、前世では妊娠していたし大きな動きはできなかった。
「ね、ヨハン、ジャンプしていい?」
「ええ? 君って結構……発想が幼いよね」
「な!? あのね、私はあなたよりも長く生きているのよ」
「でも幼いよ。可愛いからいいけどさ」
「分かっていないわね。歳をとると童心に返りたくなるのよ」
「童心ね……君はこんな子供時代を、前の世界では過ごしたわけか」
そういえば、こんな子供時代を公爵令嬢のライラは過ごしていないわ……。
藤崎綾香としての子供時代も我慢は多かったけれど、学校や放課後での遊びはあった。
ヨハンもきっと――、子供らしい子供時代を過ごしてはいない。
「裸足で芝生はなかったわ。一緒にジャンプしましょうよ」
そう言って、両手をつなぐ。
満面の笑みで小さくジャンプすると、ヨハンも合わせてくれた。
「これは、かなり恥ずかしいな……」
「足にキスするよりは、マシでしょう」
「そっちは、これっぽっちも恥ずかしさは感じないよ。毎日でもいい」
「それは……私の精神が破壊されそうね」
「毎日ここで、足にキスしてあげようか」
「……人目が多少でもあるところで過ごしましょう」
「そういえば君、人前が好きだもんね」
好きなのはあなたでしょう!
食堂でやらかしたのは、私だけど……。
完全に想いが通じてのぼせ上がっている恋人同士だわ……かなり馬鹿になっている。
「これ……ハタから見たら、ものすごく阿呆な恋人同士なんじゃないかしら」
「僕もまさか、芝生の上でジャンプをするとは思わなかったからね。聞いてみたらいいんじゃないか。そこにいるジェラルドとセオドアに」
「――――――え」
ヨハンに言われて恐る恐る後ろを振り返ると……、なんとも言えない表情の二人と目が合った。
気付いていたのなら、もっと早く言いなさいよ、ヨハン!!!
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