第22話 科目選び(原作と類似)

「この上ね」


 食堂から階段の上を見上げる。

 談話室は大きな食堂の二階部分にあたる。学園内の地図を見ると、一番くつろげそうな表記だった。


「本当に私がいてもいいのか……」

「う、わぁ!」


 突然、後ろから声がして驚いた。


「……セオドア……後ろにいたのなら、もっと早く話しかけてちょうだい」

「すまない、驚かせたか。邪魔しては悪いかと思ってな」


 気を遣ってくれるわね……。ここに来るまで、実はヨハンとの会話を聞かれていたのかな。

 ……何を話していたっけ。


「そんなに気を遣わないで。学生の醍醐味は、やっぱり友人との語らいよ。セオドアとは今しか一緒にいられないのだから、たくさんお話しましょう」

「そうだな……ありがとう」


 ヨハンから、なんとも言えない視線を感じるわ……。


「ヨハン、一応言っておくけど……私はあなた一筋よ」

「ああ。信じてはいるけど、やはりリックにもいてもらおう。リック、こちらへ来てくれ」


 階段下で話している間に、リックもいつの間にか近くにいたようだ。


「い、いいんですか。いやぁ、話しかけていい雰囲気なのかどうか悩みながらこちらへ向かっていたんですが」

「ああ、問題ない。セオドア、こちらはリック・オスティン。平民出身の騎士で、僕たちの知り合いだ。信頼できる相手だよ。セオドアの紹介は……談話室に行ってからにするか」

「そうね、人が多すぎだものね。行きましょう」

「……すまないな……」


 緊張している様子のリックも一緒に階段を上る。私たちとのやり取りと彼の雰囲気から、高貴な身分だということは伝わったらしい。


「大丈夫よ、リック。セオドアはとっても優しくて律儀で親切な人だから、取って食ったりはしないわ」

「は、はい」

「会ったばかりのお前が、なぜそんな断言をできるのか……」

「お兄さん思いの素敵な方だと認識しているわ」

「………………」


 なんとも言えない顔をしたセオドアとは対称的に、リックが息を呑むのが分かる。私をお前呼ばわりできるということは、ヨハンと同等の立場だということだ。

 それよりも……ヨハンの視線だ。


「……私にとっては、ヨハンが一番素敵よ」

「分かってはいたけど、気が多いな……」

「友人を褒めているだけで、あなたにぞっこんだから安心してちょうだい」


 私たちの会話を聞いて、リックが笑った。緊張も少し解けたようだ。


「ははっ、お二人ともとても仲がよくて、見るたびに安心します」


 談話室へ入ると、思ったよりも人がいない。


 高そうな感じの机とふかふかのソファがたくさんあり、置かれている調度品も高級なものだと分かる。職員の目もあるし、貴族としてはまるで自宅のようだ。

 ここ以外にも学生ラウンジはあるし、分散しているのかもしれない。


 適当にそのへんに座って、先ほどの続きを始めた。


「それでセオドア、あなたの正体は言っていいの?」

「……正体……お前はよく分からない言い方をすることが多いな。お前たちが信頼しているのなら、私も信頼しよう。私はセオドア・オーウェンス。フィデス王国の第二王子だ。ここではあまり知り合いもいない。よろしく頼む」

「そ、そうでしたか。よろしくお願いします。平民出身で、失礼なことを知らずにしてしまうかもしれませんが……」

「構わない、ここは学園だ。様もいらないし丁寧に話そうとしなくていい」

「分かりました。ライラさんが言っていた通り、親切でお優しい方なんですね」

「……どうだろうな」


 セオドアの自己紹介が終わると、私たちは持ってきた資料を机の上に広げた。


 経済学に科学、天文学に幾何学、論理学に機械に剣術にダンス……まだまだいっぱいあるし、必須科目と選択科目にも分かれている。

 リックとは必須科目がまるで違うものの、選択科目でもある教養は、ほとんどかぶっている。


「リックとも教養科目は合わせられそうね」

「はい、心強いです」

「じゃ、見ているだけで目眩がするけど、頑張りましょう!」


 そうして私たちは目の前の資料との格闘を始め……、なんとか昼過ぎまでに完成させることができた。


「……こいつらの人使いの荒さが、よく分かる時間だったな……」


 セオドアが嘆息する。

 うん……そうよね。

 一生懸命考えているセオドアを見て、私とヨハンは早々にセオドアが決めた時間割を下地にして科目決めをする方針に切り替えたからだ。


「セオドアとは仲よくやれそうな気がするよ。科目の好みも似ているようだ。これからもよろしく頼むよ」

「……今後も科目選びの時はリックにもいてほしいところだな……。私だけが真剣に考えるのは、うんざりする……」

「あ……はは。分かりました。そうします」


 ……リックの私たちへの印象は悪くなっていないかしら。話を変えてしまいましょう。


「それじゃ、お腹もすいたし食堂へ行きましょうか」

「そうだね。頭脳労働も体力を使うからな」

「お前らは大して使っていないだろう……」


 談話室を下りて食堂を見渡すと、まだ人は多い。四人座れる場所はなさそうだ。

 二人ずつなら、なんとかなりそう。


「四人では無理だな。ライラと二人で座るしかないな」


 嬉しそうに言わないでよ、ヨハン。

 でも、それしかないか……。


「それじゃ、今日はこれでお開きということで、いいかしら」

「はい、科目決めも終わりましたし楽しかったです。誘っていただき、ありがとうございました!」

「私も楽しくはあった。急かされている気分にもなったが……」

「親睦も深まって、有意義な時間だったな」

「はぁ……では、またな」

「ええ、またね」


 そう言って私たちは解散し、ガヤガヤしている食堂の中でヨハンと二人で席の場所取りに向かった。

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