第21話 シーナとの再会

「会いたかったわ、シーナ!」


 寮の説明に来てくれたシーナと、ひしと抱き合う。

 職員になると決まってからは先に学園に入ってしまって、ずっと会えなかった。


「私もお会いしたかったです! お元気そうで安心しました」

「やっぱりシーナがいてくれる安心感は大きいわ。ヨハンにも感謝しないとね」

「はい、本当に。少し遅かったですね。何かありましたか?」

「ああ、セオドアと挨拶をしていたのよ」

「もう仲よくなられたんですか……さすがですね」


 ……ついシーナの前でも呼び捨てにしてしまったわ。ゲームをプレイしながら心の中でそう呼び続けていたからなぁ。

 直近の記憶って、大きいのよね……。


「ええ、友人になったわ」

「ヨハネス様ともたった一日であそこまで、でしたものね。さすがライラ様です」

「ちゃんとヨハンもいたわよ。学園長と話しこんでいるヨハンを待ちながら少しセオドアと会話をして……またカムラの時みたいに、ヨハンに抱きしめられながら友人になりたい理由をセオドアの前で話す、という意味不明な展開に陥ったわ」

「そこだけ聞くと、確かに意味不明ですね」

「ええ。カムラのにゃーほどではないかもしれないけど」


 そういえば誕生日パーティーの夜、クラレッドとミーナは扉の前で警護してくれていた。

 きっと声は聞こえている。

 カムラはどうだったのだろう。


「シーナは誕生日パーティーの翌日からバタバタしてすぐに学園入りだったから、聞きそびれていたのだけど……」

「は、はい。なんでしょう」

「あの日の夜、私室でヨハンに過去の話をしたのよ。妊娠中に事故ってここに来た話まで」

「ああ、だからワインだったんですね……」


 お酒で頭の働きを鈍らせて、ということまで察してくれているわね。


「カムラは聞いていたの?」

「そ……うですね。あの日は招待客が多かったので階段上で警戒をしつつ、情報交換をしていましたが……カムラにだけはおそらく聞こえています。他の人の気配の察知も尋常ではないので、いつも誰にも聞かれていないと確信しながら会話ができますね」

「そう。ゲームでも桁違いの聴力といったことも書いてあったわ」


 ゲームなら設定で済むのに……そんな世界で生きていかなければならないなんて、可哀想ね。


「聞いていないってことにして、いいんですよ、ライラ様。本来護衛はそういう役目です。聞いていても聞いていないように振る舞うものです」

「心強いもの。あまり私は気にしないわ」

「……ライラ様のお心も、とても強いですね」


 若かったらもう少し気にしていたかも……元からのライラが護衛を当たり前のこととして受け入れていたのもあるかもしれない。感覚としては融合していると感じる。

 

 そうなると……前世での話を知っているのは、ヨハン以外に四人か。これだけ知られていると、普通にそのへんでも当たり前のこととして、しゃべってしまいそうね……。


 この後は、寮での生活の説明をしてもらった。一日の終わりに点呼のためにシーナが部屋まで来てくれるそうで、とても嬉しい。


「それじゃ、ヨハンも待っているでしょうし行くわ。説明ありがとう」

「はい、お気を付けくださいませ」


 つい話し込んでしまったわね……。


 寮を出ると、案の定ヨハンが待っていた。

 が……女生徒に話しかけられている。


 そうよね……格好いいものね、ヨハン。


「僕のライラが来てくれたから、失礼するよ」


 私の姿を見た瞬間にそう言って爽やかにきびすを返し、駆け足で飛んできた。


 ちょっと待って……なんか……止まる気配がないけど。いやいや、待って待って、ちょっとこれはどう考えても……。


 がばぁっと真正面から抱きしめられる。


 ――なんでよ!


「待っていたよ、ライラ」

「……さっきまで一緒だったと思うのだけど」

「僕は、わずかな時間でも耐えられないよ」


 はたから見ると十代らしく私に夢中になっている人よね、おかしいわ……。


 ……面倒だから、他の女生徒に話しかけられたくないってことかしら。この状態で話しかけようとする猛者はいないものね。


「……私に夢中になっているように見えてしまうわよ」


 そっと剥がして歩き出す。

 当然、手は私の腰にある。


「そうだよね、僕だけが夢中になっている。納得がいかないな」

「……私も相当なんだけど」

「それなら、君からも何かしてよ」


 そう言われましても……これ以上どうしろと。


 というか、口説き文句が多すぎて逆に本当なのか怪しく思えてくるわね。

 贅沢なのかしら……私。


「ここまでベタベタする必要はないと思うわよ」

「あるに決まっているじゃないか。僕たちの仲がいいことを他の人は知らない。僕たちとすれ違った人しか知らないんだよ。君に言い寄る男だっているかもしれない」


 ああ……逆ね。

 王族相手なら、愛人でもいいからと思う女性はいるに決まっている。私を安心させるためと女よけ、その二つが理由かしらね。


「この学園の生徒、全員が目撃するまで続ける気かしら」

「……やっぱり僕だけが夢中になっている。君、釣った魚に餌はやらないタイプだよね」


 そ……そうなのかな。

 だから今まで、誰ともうまくいかなかったのか……。


「はいはい、落ち込まないで。でも、こうなったのが最近でよかったよ。父上に伝わっていたら、毎週公務に戻るはめになるところだった。たぶんね」

「何それ……関係あるの?」

「ああ。君と離れるなんて耐えられないと思う僕は、間違いなく卒業後すぐに君と結婚するだろう。そうすれば一人前だと見なされる。父上なら、そんなに日を置かずに僕を共同統治者にするよ。人任せにできる部分は遠慮なく人任せにするタイプだからね。その時期がより近いと見て、その準備のためにも毎週帰らされたはずだ。それでも、月に一度か二度は戻るけどね」

「そうなのね……」


 そっか、ヨハンがいない時もあるのか……。

 それだけで心許ない。でも、頻度が少なくてよかったと思おう。


 そんな雑談をしながら、私たちは談話室へと向かった。

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