第17話 明かされる過去
「不信に思っている箇所を、教えてもらえるかしら……」
できれば結婚して妊娠までしていたことは言いたくない。十六歳からしてみれば、どう考えても年増女だ。しかも他の男と愛し合った経験がある。
――メルルを選ぶでしょう、どう考えても。
「君のことは今日までに色々と調べた。今まで以上にね。人格が変わりすぎている」
そういえば……シーナもカムラに色々聞かれたと言っていたものね。ヨハンもカムラも、相当不信には思っていたのかもしれない。
「でも、何も出てこなかった。夢の影響というのを信じるしかない」
「ええ、それしかないわ」
誰かの影響や、洗脳の類いまで怪しまれていたのかもしれない。
「だから、夢の中でと仮定した上で君に聞こう」
詰問しているはずなのに楽しそうね……。
それに顔が近い。
近すぎて、受け入れてもらえるような気がしてしまう。
「今までの僕とのやりとり。他の男と深い仲だった経験がなければ、できないはずだ」
鋭い……!!!
既にバレているじゃない……。
「カムラへの対応もおかしい。今までと価値観すら変わっている。君が用意するゲームも、予知では知り得ないはずだ。リックやアンソニーへの理解の深まりは、予知かもしれないけどね。お酒も飲んだことがあるよね。だからこそ、あんなにも飲みたそうにしていた」
あ、もう駄目だ。
バレバレだ……。
「信頼関係のない夫婦は破綻する。そう言っていたね。あまりにも断言しすぎている。それを経験しているとしか思えない。今言った僕の内容全てに、整合性のある解答をくれるかな」
誤魔化しでなんとかなる男じゃなかったわ……。どう考えても、整合性のある嘘は思いつかない。
でも……今の内容を踏まえた上で、私とあのやりとりをしていたのね……。
どうなっているのかしら、この人。
「当たりよ、正解。完敗よ。このまま、ふてくされて寝たいわ」
「寝ないでくれよ。僕は解答がほしいって言ったんだよ? 僕の願いだけ叶えないつもり?」
「ああ……そうだったわね」
正解よの一言で済ませたい……。
あまりにもバレバレで、私の演技力のなさがさらけ出されて恥ずかしいわ。
ヨハンが、ふわっと私の額や頬にキスを落とした。
言っても大丈夫な気がしてきた……。
雰囲気に流されているのかな。
約束だし……仕方ないか。
もういいや、どうにでもなってしまえ。
「……私の感覚では夢じゃないのよ。違う世界で生きていたの。時間の感覚もここと同じよ。そこで結婚して妊娠して事故って死んで、気付いたらこの世界にいたの。ライラの記憶もあるけれど、直近はそっち。この世界は、そっちの世界に存在するゲームの中で見たの。魔法の絵本のようなもので、映像も声もあるわ。私は主人公のメルルで、ヨハンと学園で恋に落ちた。恋愛が目的のゲームで他のお相手も選べるけれど、ヨハンとだけベストエンドを迎えて、すぐに私は死んだのよ。それだけ」
うん、完璧な説明だ。
お酒も入っているのに、さすがね私。
「なるほど。そのゲームの中で、僕は君との婚約を破棄したってことか」
「そうよ。メルルが他のお相手を選べば、そうはならないでしょうけど。それでも、あなたはもうメルルに前半で惹かれていたし、彼女への恋心を引きずっての不仲な結婚生活はたぶん確定していたわ」
うん、もう言うべきことは言ったわね。
正直眠いわ……。
布団に横になっているし疲れているし夜だし……ヨハンは分かっていたみたいだし。
だんだんと、まぶたが下がっていく。
やっぱり初回はこんなものよね……。もう少し身体にお酒を慣らさないと。
でも、学園では飲めないしな……。
「千年の恋が冷める理由、あまりにも具体的だったよね。その未来を避けるために、僕を落とそうとしたの?」
夢うつつの中で聞かれているようだ。
ヨハンが私の頭をなでて、またあちこちにキスを落としていく。両手をつながれたまま、幼子を見るような眼差しのヨハンと見つめ合う。
優しい照明の中で、ベッドの上に二人きり。
全てを受け入れてもらいたくなる。
「……そうよ。十代の男の子なら落とせるかなって。しばらくの間なら、夢中になってもらえるかもしれないって」
「しばらくの間? ずっとではないの?」
「だって私……ずっと愛されたことが、一度もないもの……」
あまりにもヨハンが私を愛しているかのように振る舞うから……つい、縋ってしまう。
落とすのが無理なら、同情でいい。
つなぎ止めたい……。
「恋人がいた時もあった。でも……すぐに自然消滅したり、ふられたわ。夫とも結局ああなってしまった。親にもね、幼い頃から関心を持たれなかった。喧嘩の絶えない両親で……可愛げがないってよく言われていた」
寄り添ってくれる人が誰もいない孤独感を思い出して、涙がこぼれていく。
「ねぇ、ヨハン……。私の何がいけないのかしら。どうしたら、ずっと愛してもらえるの。話す内容が駄目なの? 価値観が駄目? 性格が女性として駄目なのかな……」
「駄目じゃないよ、ライラは可愛い」
「最初はそう思っても、誰も彼も皆……愛してはくれなくなるのよ……」
子供はかすがいって言うけれど、お腹の子供が産まれていたらどうだったのかな。
でも……つわりでボロボロになって料理もできなくなって、大きな溝ができた。夫は私からの日常のサポートを期待し続けていた。新生児の世話をしていたら、もっとボロボロになっていたはず。
関係は……、戻らなかったかもしれない。
「だから、グッとくる行動や言動が知りたかったの?」
「そうね……私を好きでいてほしい。できるだけ、少しでも長く。ん……ヨハン、なんて答えたんだっけ、あんまり思い出せないな……」
「君がすることも言うことも、全部グッとくるよ」
ヨハンが私の真横に寝転がると、腕枕をして私を抱きしめる。すごく安心して、このまま眠ってしまいそう。
私の過去を聞いても態度が変わらないヨハンなら……。
「なんだっけ……私を好きにして、だっけ……」
「あーあ、もう。君がワインを飲んでいなかったのなら、きっと僕は我慢をしていないよ。今日の君は頑張った。もう少し聞きたいことはあったけど限界そうだ。もうお眠り」
彼が、私の唇にそっとキスをする。
未来のメルルより、好きになってもらえたのかな……。
「ああ、ごめん。最後に一つだけいいかな」
「ん……なに?」
「君は目的のために手段をあまり選ばなさそうに見える。僕を落とせなかったら、どうするつもりだったの?」
「んー……そうね……」
諦めるしかなかったのなら……。さっき、そんなことを考えた。
「できるかは分からないけれど……あなたに婚約破棄をしてもらうか解消を促して、セオドアを落として隣国へ逃げようとしたかもしれないわね……」
「――――え」
私は爆弾発言をしたことに気付かないまま、意識を手放した。
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