第13話 ライラの私室
私室へとヨハンと共に入る。
実は私たち、客間から出た後に一度分かれている。ミーナから「おくつろぎになられるなら、着替えられますか」と聞かれ、お互いに別室で着替えてから来たからだ。
私はいかにもなネグリジェで、ヨハンは室内着といった雰囲気だ。こうなることは分かっていたし、公爵家で用意したのではなく持ってきていたのかもしれない。
というかミーナ……なんでネグリジェを選んだの……。普段用の簡易なワンピースでもよかったのに。
壁掛けのランプが灯り、ワインも置いてあるのが目に入った。
なぜかヨハンと入るだけで、バーの中で恋人たちが語らうような空気感が漂うわね……。
大型の照明は、消されている。
ヨハンと部屋へ入ることを前提に、いつの間にやらそんな雰囲気を演出されている。
「あれ、また何かが置いてあるね」
そうなのよね……、でも今からまたゲームをやるほどの気力は、振り絞らないとないのだけど。
「ベッド横のサイドテーブルに置いてあるのは、どういう意味かな」
「……また、座る場所を選ばされるかと思ったのよ」
「君は僕とベッドに座るのが好きだからね。それなら期待に応えて、選ばせてあげようかな」
そう言って先にベッドの隅に座ると、大きく手を広げられる。
「僕の隣と僕の腕の中……、どっちに座る?」
完全に私で遊んでいるわね……。
「私を意のままに操ろうとしないでくれるかしら」
「……そのつもりはなかったけど……いや、あったのかな……」
ヨハンの腕の中に座ったものの、いきなりヨハンの表情がくもってしまった。
……しまった。
そういえばそうね。
この人は王太子。人を意のままに動かすために、策を講じる人。
それが平和や安寧のためだったとしても。
その上、私から理想の王太子様像を押し付けられて重荷に感じていた過去も長い。意のままにされる気分の悪さも……知っているはずだ。
思い出したくないことを、思い出させてしまったかもしれない。落ち込ませてしまったのだとすれば、フォローしなくては落とすどころではないわね。
「もう少し、自重した方がいいのかな……」
「しなくていいわ。あなたの意のままにされるのは悪くない気分だもの。すごくドキドキするし、もっとしてほしいって思う」
「え……」
メルルの前で、この人は素直になってしまう。そんな自分を受け入れられて、舞い上がってしまう。
ゲームでは共通イベントの段階で、もうメルルに惹かれてしまっていた。私の前で好きなことも言えなくなったら、おしまいだ。
「本当に嫌だと思ったら、ちゃんと言う。だから、言いたいことを言ってしたいようにして。私はあなたに、好きにされたい」
「――――っ」
あれ? なんか……ヨハンの身体が僅かに震動したような?
「ヨハン?」
「……君は……僕が落ち込んでいる方が、積極的に口説いてくれるみたいだね」
そう言いながらも、目を閉じて深い息を吐いている。思った以上に傷つけてしまったのかもしれない。
「ごめんなさい……落ち込ませる意図はなかったのよ。あなたにされて嫌なことなんて一つもないの。我慢せず、好きにして?」
「君はもう……。そういえば、前にも言っていたね。我慢しないでってさ」
「ああ……カードの話ね。あなたは笑いを堪えていたみたいだけど」
「さっきの台詞がなくて、よかったよ。危ないところだった。油断していた」
意味が分からない。
危ないところ?
もしかして、完全に惚れそうだったってこと?
「え、待って。どの台詞……」
「そういえば、ミーナとシーナは学園に君がいる間、どうするの」
なぜ、突然そんな話に?
「え……と、せっかくだから自由にしていいってお父様にもお願いして言ったのだけど……二人ともここで待つような雰囲気で……」
「シーナを職員として学園に入れて、ミーナには希望するなら外国への渡航費用を王家から負担して、各国を回ってもらおうかと思っているんだけど」
「ええ!?」
いきなり提案されて、驚く。
「も、もちろん、シーナが来てもらえたら嬉しいけど……え、外国……?」
「ああ、僕の方からもカムラ以外の職員も入るし、婚約者の君の安全のため、シーナを入れることは簡単だ。ミーナはよく、休みの日に図書館で外国の本も読んでいるしね。興味はあると思うよ。彼女の視点で各国の雰囲気や、国民性なんかを把握してもらうのも、今後のために有効だ。ミーナが希望するなら行方不明になった彼女の父親の住んでいる場所も伝えるつもりだよ。もちろん、君のご両親の了解はとる。君がいいって言うならね」
情報量が多すぎて、頭に入ってこないんだけど……。
「お願いはしたいけど、なんで私よりあなたの方が、ミーナの事情に詳しいのかしら……」
「結婚したら、二人とも連れて来るだろう? 調べない方がおかしい」
「それは……そうね」
確かに王室サイドから見れば当然だ。変な人間に内部へと入り込まれても困る。ボロが出そうな前の前から調べておかなくては危険性が増す。なにせ、この国の王子は一人なのだから。
でも……私はあえて、彼女たちの背景なんかは調べても聞いてもいなかった。両親に聞けば済むことだけれど、裏切らないと信じているし無理に知ることもないかな……と。
そう、私になる前のライラも思っていた。
知っていることは、彼女たちの母親もまた戦えるメイドではあったものの若くして亡くなり、父親は行方不明になっていることだけだ。母親の遺言で二人は幼い頃から外国の養成所で鍛えられ、こちらに戻ってからはメイド養成学校を卒業している。
「それなら、二人ともそのようにお願いするわ。ありがとう」
「ああ、任せてくれ。それじゃ、このよく分からない物体の説明をしてほしい」
「あ……うん。これね……ラブジェンガよ」
細長い木のブロックを三本ずつ、互い違いに積み上げた塔だ。
「一本ずつお互いに抜いていって、書いてある命令を実行するの。と言っても全ての内容を考えている時間はなくて、色つきのブロックにだけ書いてあるわ。それをできるだけ選んでほしいわね」
「なるほど。でも、もう夜も遅いしな……。パーティーは夜中まで続くだろうから遅くても問題はないけど……君は少し眠そうだ」
「そうなのよね……」
ヨハンがせっかく積み上げた塔を壊して命令を読んでいく。
書いてある命令は私が考えたもので、前世のラブジェンガとは全く違う。
「……読まないでほしいのだけど」
「君だけが僕に引かせたい命令と実行したい命令の場所を知っているのは、おかしくないか?」
バレたか……。
せっかく考え抜いた配置で、置いておいたのに。
「時間は有限。そうだろう? 君は、僕にしてほしい何かがあってこれを選んだ。五つ、命令を選んでよ。全部叶えてあげるから」
またそれか……。
そう思いながらも、やる気が出る。
今度は叶えてもらう側だ。
少しだけうきうきしながら、選び始めた。
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