第12話 あてっこゲーム
私たちが席に着くと、呆れたようにローラントが言った。
「姉さん……あんなに必死になって、ヨハネス様が姉さんを好きなのか確認する必要もないくらいに、仲よしじゃないか」
最初から私のライフを削らないでちょうだい!
「そうだったのか、ライラ。それは悪いことをしたな」
ほら、ヨハンが調子にのったような顔をしちゃっているじゃない!
「俺……あ、いえ、私も前回お会いした時に、ライラ様のヨハネス様への強い想いに、胸を打たれました。ライラ様の想いの成就を心より願っていたのですが、今日拝見いたしまして、上手い言い方が見つかりませんが……安心しました。末永いお幸せを祈っています」
ちょ、リック!?
その言い方だと、私がヨハンへの想いでも演説したみたいじゃない。その上、結婚した二人への挨拶みたいよ。
やめて、もうやめて……。
「ああ、そんなことを話していたのか。リックとは仲よくやれそうだ。ライラが君をとても信用していてね。少し心配していたんだが、安心したよ。学園でも、僕たちと親しくしてほしい」
「は、はい。光栄です。よろしくお願いします」
コンコンと、タイミングを見計らったように扉がノックされる。
「どうぞ」
そう言うと、中に何人かの使用人が入ってきた。
「お料理をお下げしても、よろしいでしょうか」
「ええ、お願い」
このタイミングなら、話題を変えられる……!
「リックは戦術学科に入るのよね」
「はい。実践的であったり特殊な授業も多いと聞き、楽しみにしています」
そういえば、戦術学科専用の施設が併設されているものね。戦闘訓練とかするのかな。
「それでも、私たちと授業がかぶる時もあると思うわ。楽しみね。ダンスがネックだとは思うけれど……」
「え、ダンスの授業があるんですか」
「ええ、平民は必須で……」
そうだわ!
メルルがリックとくっついてくれれば、共通イベントの邪魔をするだけでヨハンはメルルに惹かれないかもしれない。
「……平民出身の、メルル・カルナレアという名前の女性も入学されるわ。その方もダンスで苦労をすると思うし、同じ困難を共有することで気持ちも楽になるはずよ。学園に入ったら、話しかけてみたらどうかしら」
「そうなんですか。そうしてみます」
隣のヨハンが気分よさそうね……。
あからさまに、ヨハンとメルルを引き離そうとしているものね。
「いいなー、僕が入学できるのは二年後だし、遠すぎるよ。そっちの勉強もかなり前からしているしさ、特例で受験させてほしいな」
「騎士学校での教育が中途半端になるじゃない」
「そこなんだよねー」
使用人が全ての食事を片付け、私たちにハーブティーを給仕して部屋から出て行った。
よし、私たちだけになったわね。
「それじゃ、親睦を深めるためにゲームでもしましょうか」
「ちょっとライラ、自分の弟にまで色目を使う気?」
「そのゲームじゃないわ!」
ヨハンと一緒にどんなゲームをしているんだ、という視線をローラントとリックから感じる。
ほんっと、やめて……。
「あてっこゲームでもして、親睦を深めましょう」
「えー、何それ姉さん。色目を使う方のゲームも気になるけど」
「それは忘れて。そうね……ローラント、まずは簡単に、この部屋の中にあるものを頭に思い浮かべてちょうだい。なんでもいいわ」
「え……ええっと……」
ローラントが、部屋の中をキョロキョロする。
「う、うん。思い浮かべたよ」
「それじゃ、質問をするわ。はいか、いいえで答えてちょうだい。それは文房具かしら?」
「いいえ。違うよ」
「こうやって、質問をして当てていくのよ。リック、何か質問をしてみて」
「ええっと、そうですね……それは家具ですか?」
「んっと、家具だね」
「次はヨハン、聞いてみてくれるかしら」
「そうだな……それは大きいかな」
「はい、大きいですね」
「ライラ、大体分かったけど……言ってもいいのかな」
「……早いわね、いいわよ。これだと思った人がすかさず言っていいわ」
「シャンデリアかな」
「すごい! ヨハネス様、当たりですよ」
いくらなんでも早すぎでしょう。
「上を見ていたからね」
視線か!!!
最初だからと、部屋の中に限定したのが間違いだったわね……。
「じゃ、次はリックね。今はバラバラだったけれど、右回りに質問しましょうか。次は部屋の中の物以外でもいいわよ」
「は……はい、どうしようかな。はい、想像しました」
「じゃ、僕から質問するね。うーん、質問を考えるのも難しいな」
ローラントが悩みながら聞く。
「この部屋には、ある?」
「この部屋には……ないですね」
「次はヨハンよ」
「ふむ。それは武器かな」
「え……! はい、武器です」
「剣だな」
「せ、正解です」
だから、早すぎだって。
「ヨハン……あなたは、どうなっているのかしら」
「リックが咄嗟に想像しそうなものを最初に消そうと思っただけだよ。この部屋には、とわざわざ言ったのは、預けて他の部屋にあるのかなとも少しは思ったけどね」
「……悔しいから、次は私から出題するわ」
「いいよ、楽しみだ」
出題順は、左回りになってしまったわね……。
まぁ、いいか。
当てにくい、貴族っぽくもないような何かは……。
「想像したわ。リック、どうぞ」
「ええっと、それは建物の中にありますか」
「ないわ」
質問を工夫してきたわね。
次は、ローラントね。
「それは、生き物とかじゃなくて、物?」
「物ではないわね」
「外にあって、物じゃないのか……それは植物かな」
「そうよ」
ヨハンによって、かなり絞られたわね。
「それは、花ですか?」
「違うわ」
「じゃぁ、作物?」
「違うわね」
「それなら姉さん、答えはただの草かな」
「当たりよ、答えは雑草。もう少し具体的な植物にすればよかったかしらね。次にヨハンが出題したら、出題者も右回りにしましょう」
結構早く当たってしまったわ……。我ながらセンスがなさすぎたかしら。
でも、なんとなく仲よくなってきた気がする。やっぱり、ただ話すだけではなくて共通の楽しい目的があったほうがいいわね。
それから何巡かして、もういいかなと声をかける。
「そろそろ終わりましょうか。ヨハン、あなたで最後にしましょう」
「僕で最後か……いいよ、想像した」
そう言って、なぜか頬を触れられる。
意味ありげな目で、見つめられる。
これ……私じゃない?
いやいや、待ってよ。
最後のゲームくらい、一つずつは皆で質問したい。
「それは……人、かしら」
「ああ、人だね」
私でしょ、やっぱり……。
リックが私たちを交互に見て、赤くなりながら質問をする。
「そ、それは、将来を約束されている方ですか?」
「ああ、約束している。死が二人を分かつまで、共にあるだろう」
婚約者だものね……。
ローラントも分かっているという顔で、にやにやしながら質問をする。
「それは、ヨハネス様が大好きな人、ですか?」
「ああ、大好きな人だ」
この場で違うなんて、言えるわけがない。
言わされているだけ……。
分かっているのに、心が浮き立つのを止められない。
おかしいわ……このゲームは色目なんて関係のないゲームのはずよ。
皆、分かっていて……答えを言わない。
私に言わせるためだ。
全員の視線が、私へと注がれる。
「……それは世界中で一番、二人きりになりたい相手かしら」
「ああ、その通りだ」
「答えは私ね。願いを叶えてあげるわ」
「ああ、行こうか」
最後にまた、この空気になって立ち去らなければならないのね……。
二人が立ち上がって、お見送りをしてくれる。
「リック、また学園でな」
「はい、楽しみにしています」
「ローラントは、二年後の首席を期待しているよ」
「お、重いですよ、ヨハネス様。でも、期待してくださっているなら頑張りますよ。姉さんをお願いします」
「ああ、任せてくれ」
任せてくれ……か。
そう言ってもらえるほど親しくなれたことに、くすぐったくなるような嬉しさを感じる。
でも、まだたった二日だ。
私がこの世界へ来て、今日も入れてたった二日しか会っていない。
きっと今離ればなれにでもなったら、そんなこともあったっけと軽く思い出す程度の重さでしかないはずだ。
恋に落ちて、私に夢中になっているほどとも思えない。
もう眠くて疲れている……けれど、戦わなくては。
「それではね」
――彼を私の虜にさせる最終決戦の火蓋は、これから切られるのよ。
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