第11話 ヨハネスとリック
「ああ、失礼する」
中に入ると、リックが緊張した様子で胸に手を当てて騎士の礼をとった。
「リックか。卒業試験見事だった。模擬戦での剣捌きも見応えがあったよ。さすがの一言だ」
「もったいないお言葉、ありがとうございます。今後もより一層、励みたいと思います」
「ああ、よろしく頼む。遠目からでは分からなかったが、前に会った時からずいぶん背が伸びたようだな」
「は、はい。自分でも驚きで……」
「頼もしい限りだ」
硬いわね……硬すぎるわ。
私が友人にと言ったから、会話を続けてくれているのでしょうけど……仲よくなれるのかしら。
というか、もう知り合っていたのね。
そういえば、騎士学校に労いの言葉をかけに来るとか言っていたものね。騎士学校の卒業試験も、観覧と最後の挨拶でもしたのかしら。
「それから……遅れてしまって申し訳ありませんが、ライラ様、お誕生日おめでとうございます」
「ええ、ありがとう」
「ドレスも、とても似合っています。いつもお美しいですが今日もとても綺麗です」
「ふふ、誕生日ですもの。ありがとう、嬉しいわ」
着飾っているし、そう言わざるを得ないわよね。……ヨハン、睨まないでくれないかしら。
ローラントが機を見計らって、にこにこしながら話しかける。
「ヨハネス様、夕食はまだですよね。ご用意したのでお召し上がりください。僕たちはもういただいたので、姉さんとどうぞ」
「ああ、いただこう」
客間が立食パーティー会場になっているわね……量が多すぎでしょう。
というか、目立つように置かれているこれは……!
パーティー会場でも目に入れないようにしていたけれど、どう見ても……!!!
「……ワインが置いてあるわね」
どうしてくれるのよー。
せっかく我慢していたのに、こんなに目立つように目の前にあったら欲しくなるじゃない。
「うん、姉さんの十六歳の誕生日だから、一応ね」
学園では当然お酒は提供されないし、ゲームでも出てはこなかったけれど……実はこの世界、十六歳からお酒が飲める。
「強いか弱いかまだ分からないから、やめておくわ……」
だからこそ、パーティー会場でも遠慮した。
飲みたい。
しかし、ここで弱すぎてヘベレケになったら、色々と台無しだ。
まずは、そのうち一人で試したい。
「ライラ、僕と一緒に後で試してみればいいじゃないか。君の私室に持っていってもらおう」
「えぇ……?」
いやいや、ヨハンの前でもヘベレケになるのは……。
でも、いつも以上に大胆になって、恥ずかしい台詞も言いやすくはなるかもしれない。
学園に入ったら飲めなくなるし……。
ああ――、駄目。美味しそう。
我慢できない。
一口だけでも、後で飲みましょう。
万が一、泣き上戸や笑い上戸になった状態で部屋の外に出ようとしても、ヨハンと二人ならなんとかしてくれるでしょう。
勧めた責任くらいは、とってくれるはず。
一人で酔っぱらって使用人に迷惑をかけるのと……どっちがマシなのか分からないけれど。
「……そうね、運んでもらうわ」
前世でも、ずっと我慢していた。妊娠を待ち望んでいる間も、妊娠後もずっと。
飲んでしまおう……!
扉を開けて、ミーナに頼んだ。
「ミーナ、悪いけれど、私の部屋にワインを運んでおいてもらえるかしら。ここでは飲まないから、そこにあるのを持って行って」
「かしこまりました」
部屋の中の声も聞こえているだろうけど、お互い表には出さないのがマナーだ。
前回のように「反省会をしましょう」など、話題に出してもいいですよと私が許可した場合のみ、合わせてくれる。
部屋に戻って、ディナーを食べ始める。
ミーナに運ぶのは頼んだものの、ワゴンも必要だ。護衛の仕事もあるし、今は姿が見えなかったシーナがどこかから来るはず。
……こういう時はどうしているのかしらね、シーナとカムラは。
たぶん、ミーナやクラレッドがすぐに呼べる場所にいるのだろうけど。
酔っ払った招待客が迷いこんできた時の対応のために、階段の上に佇んでいたり護衛待機室にいるかのどちらかだと思ってはいたけれど、情報交換をするともシーナが言っていた。
シーナの私室や天井裏にいたこともあるのかしら……。
ヨハンとディナーを食べていると、予想通りシーナが来て、ワゴンで持って行ってくれた。
普通はこういう食事の時には部屋の中にも使用人がいるものだけど、ローラントが親交を深めるために人払いしたのだろう。
お酒、きっと大丈夫よね……。
貴族はお酒に慣れているもの。
そういう血が、流れているはずだ。
もし弱いと分かってもヨハンが知っていてさえくれれば、結婚してから誰かに促された時には、すかさず止めてくれるはず。
……婚約破棄されなければ、だけど。
「誘惑に負けてしまったわ……」
「君を誘惑できて満足だよ。いいじゃないか、飲みたかったんだろう?」
「そうだけど、どうなってしまうのか少し不安ね。強いといいのだけど、初めてだし……」
この身体のアセトアルデヒド脱水素酵素の働き具合を事前に知る方法が、あればいいのに。
「僕がいる。どうにかなってしまえばいい」
耳元で熱く囁かれる。
「……私が口説かれている気がするのだけど」
「そうだね、ここではなかなか君が口説いてくれないから、君のオハコを奪ってしまった。後で存分に堪能させてくれるかな」
あのー……後ろにローラントとリックがいるんですが。不自然に会話が止まったんですが。
やめてーーー。
身内の前での羞恥プレイは、恥ずかしすぎるわ。
これは、あれよね……。
リックと仲がよくなったって私が言ったばっかりに、牽制しているわね。さっき綺麗だとか言われていたのもあるのかもしれない。
私はこんなに頭の悪い会話の後に、彼らと同席して雑談しなければならないのね……。
はー……どうしよう。
もう、食べ終わっちゃったわ。
お皿を置き、ヨハンと目配せをしあう。
お互いに、終わったよねという確認だ。
さて……既に疲れ果てているけれど、気力を振り絞って頑張りますか。
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