第8話
「……そうか、おまえさんはそんなに飛ぶことが好きだったんだね。
本当に、心から好きだったんだね。
飛んでいさえすれば何もかも忘れるほど好きだったんだね」
月が言うと、鷹は動かぬ体で何度も頷こうとしました。
そうなんだ、その通りなんだ、それこそが俺の言いたかったことなんだ、と思って。
何を言っても月が「そうなんだね」と言ってくれるので、鷹は安心して何でも打ち明けることができました。
そうしてその度ごとに、「ああ、俺はそう思っていたんだ」と、自分でも気がつかなかった自分の本当の気持ちを知ることができたのです。
「そういえば、外の建物の間に梅の木が一本残されていて、つぼみが目立ちはじめていたよ」
月の一言に鷹の脳裏に浮かんだのは、懐かしい野山の春先の情景でした。
「山の梅の木は、今頃、どうなっているでしょう」
鷹は紅や白の花の咲く梅の木を思い出しながら尋ねました。
「日のよく当たるところのつぼみは、もうだいぶ膨らんできているよ。
しばらくすれば、ほころんでくるだろう」
「あれはいい匂いだったなあ……」
鷹はふくいくたる梅の香りを思い出しました。
月が答えて言いました。
「ああ、梅の香りはいいね。鶯も飛んでくるね」
「あれは声はいいが、あまり美味くはないんだ」
「ははは……、花よりなんとやら、か」
「思えば、生きるためとはいえ、可哀そうなことをして来たもんです」
「…そうじゃね。食べられたものたちは可哀そうだったね。
でも、おまえさんには生きるために必要だっただけじゃ。
仕方のないことじゃったんじゃよ。
だから、決して自分を責めるでないよ。
神様のお決めになられたことに間違いがあるはずがないんじゃよ」
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