第10話公開裁判




本来は、執行室で執行官の判断で言い渡される罪状が、今回は違っていた。



兵舎の前で、公開裁判が行なわれることになった。

大勢の住民が押し寄せて、兵士達は住民を押さえるのに忙しい。



そんな住民から見えるように、1段高い台が作られて、執行官代理のカイ・ヘイモンドが罪状を読み上げた。


「テイテイ商店の主、オデル・ライトとガイ・ラミアン元執行官は、無実な罪をでっち上げて、多くの人々を罪で死なせた事はあきらかです。わたしは財産の没収と死刑を求めます」


名を呼ばれた両名は、一斉に立ち上がりカイ・ヘイモンドにののしりだした。

その言葉に怒りを覚えた住民から、オデル・ライトとガイ・ラミアンへ反対に罵りが起きた。


「この欲張りの守銭奴しゅせんどが、どれだけ金をむしり取ったら気が済むんだ」

「俺が殺してやる」

「あの執行官が、父を殺したのよーー」

「死んでびろーー」


兵士がなだめるまでに時間が掛かった。


台の更に高い台から、裁判官を担うセバスが言い放った。


「皆さん、静かにして下さい。その両名の判決が言い渡されなくなりますよ。この裁判を取り止めますか・・・」


その言葉を聞き、広場全体がシーンと静まり返った。


「両名も静かにしなさい。後で弁明の機会を与えます」


「裁判官、証人を呼んでもよろしいですか?」


裁判官が頷くと、1人の女性が現れた。そして、ぽつりぽつりと話し出した。


「わたしは、オデル・ライトによって妾にされました。前の夫はオデルとラミアンによって罪人されて殺されました。どうかこの2人に死を与えて下さい。お願いします」


そのまま泣き崩れた彼女は、兵士よって介抱されながら立ち去った。

次の証人は、感情をあらわにして2人がやってきた、悪行を洗いざらい話した。


その中の1人が、泣きながら嘘の証言を強いられたことを打ち明けていた。


「本当に申し訳ありません。わたしの嘘で人が死ぬなんて思いもしませんでした。ただ怖かっただけなんです。すいません、すいません」



15人の証人が、証言する度に広場がざわついた。


「ここに両名のやり取りが分かる手紙があります。裁判官、読んでみても良いでしょうか?」


「読んで聞かせて下さい」


カイ・ヘイモンドは4枚に及ぶ手紙を読み上げた。


広場からすすり泣く声や、ひそひそと話声が聞こえている。


「なんて、極悪なことをして来たんだ。あれでも人間か?」


「俺の友人も、品を安い値で買い叩かれたと泣いてたよ」


「俺なんか、腐っているぞと脅されて買い叩かれたよ」



裁判官のセバスは、おもむろに被告人に向かって言い放った。


「最後に被告人の弁解を述べて下さい」



「わしらがやった事は、帝国でも当り前に行なわれている。どうしてわたしらなのだ!」


「わたしの商会も、帝国では同じように受けている。それなのに・・・」



「それが、あなた方の弁明なのですか?・・・弁明になってませんね。オデル・ライトとガイ・ラミアンは、有罪。執行官代理の求刑通りの財産の没収と死刑を宣告します」


うな垂れた両名は、兵士たちによって連れて行かれたが、その両名に石が1つ投げつけられた。

それが2つになって、投げつけられる数が増えだした。

その石は、兵士にも当たるようになった。


「やめろ、こっちまで当たったぞ!!」兵士も怒りだした。


ガイ・ラミアンは、当たり所が悪かったのか失神していた。


広場では、裁判官をめたたえるの言葉で一杯だ。

それは歓喜の声となって広がってゆく。

兵士のなだめる行為にも、治まるようすもなかった。

知らない同士で抱き合ったりして、喜んで騒いでいる。


「こんなに凄い事になるなんて、母さんも連れて来るんだった」


「やったあ、なんてすばらしい日なんだ」


「ひゃー、あのセバスって人、凄過ぎるわ。何処に住んでいるのよーー」


そんな中で、ラーナ・スイは冷静にその光景を見ていた。




広場で、それは頻繁ひんぱんに起きていた。


「お前は悪人だ!さっさと連れ去れ」


「お許し下さいセバスさま」


「今度は、おいらがセバスだよ」


「その次は、あわたしもやるー」


「お前は女だから、証人しかなれないよ」


「そんなの、いやだー」


ちなみに、セバスの人気は急上昇になって、子供たちの裁判ごっこが流行っていた。

それと未婚の女性陣では、セバスに奥さんが居ないことで盛り上がっているらしい。

セバスは歳をいっているが、顔立ちは良い方だ。



そして死刑を受けたオデル・ライトとガイ・ラミアンは、牢から引き出されて、森の深くの処刑場で毒を無理やり飲まされて死んだ。

補佐官が瞳孔どうこうや脈を確認。


本人も自分自身が死ぬ場所とは、思っていなかっただろう。

なぜなら本人も処刑場に来て、死んでゆく人を嬉しそうに見ていた。


補佐官は「投げ捨てていいぞ」と吐き捨てるように言った。



そして深い穴に放り投げられた。

投げ捨てられたのに、まったく音がしない。


この穴は、何処かのダンジョンにつながっている。

そんな噂が絶えない穴であった。

しかし、誰もこの穴に入って確認した者は無い。

いわく付きの大穴だった。


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