第9話水車と村




農耕地から離れた川で水車がクルクルと回っていた。


水は汲み上げられて、一段高い水路に注ぎ込まれていた。

離れた農耕地まで緩やかに水路が流れている。



農耕地はこの川より高い土地の為に、どうしても水を高い位置まで汲み上げる必要があった。


この水車も発明されて100年は経っていた。

発明した人が偏屈な人で、本にして発表したが誰も見向きもしない発明で終わっている。

悲しい話だ。全財産をつぎ込んで出版した本だった。



俺は帝国図書館で、捨てられる寸前の本をもらい受けた。

それなりの金を、図書司書としょししょに渡す羽目になったが、貴重な知識には金をいとわなかった。


その中に水車の本があった。

読んで知っているが、俺なりの改良を加えて、正確な設計図を作成して建築班に作らせてみた。

本当に成功するか、実際に見てみないと分からなかったが、成功して安心している。

水路はスケルトンに24時間頑張ってもらい、3日で完成した。


今は、兵士達と一緒に魔物討伐に出掛けている。


1日目から活躍していたと、サラス隊長の報告だった。

スケルトンが成長すれば、召喚出来る数が増えるので楽しみだ。

勿論、ミラーも頑張っているようだ。


俺は水車の屋根に、結界オーブを取り付けて魔道具台につなぎ終えた。

後は魔石をはめ込めば、結界が張られてここ一帯が結界によって守られる。

そして、この土地には農耕地と村を作る予定だ。



魔石をはめ込んだ。外に出て屋根の上を見上げると、結界オーブと同じようなボワンと輝きを発している。

【魔眼】で視ても、結界オーブと同じ効果の結界を張っている。



人間が住むには水が必要で、ここなら安心して住めるだろう。

そして、ここの結界は農耕地の結界と同じ機能の結界を張る必要があった。


農耕地の結界は、ローラン領土に充満するマナを通す働きがあった。

そして、魔物が嫌う結界で魔物の進入を防いでいる。

そして有害なマソを排除している。

植物の成長促進にマナが必要だった。

マナ有りとマナ無しでは、植物の成長に大きな違いがあった。




早く栄養満点で収穫量が多い特徴があった。

しかし、マソが加わると一転して、別の物になってしまう。

そして、それを食べ続けると変化が起きることを賢者は恐れていた。

犬を使った検証が賢者によって成されていた。

賢者は長生きだった為に、地道に検証を続けることが出来た。

検証期間は50年であった。


そして、賢者の遺言でその後50年も子孫によって検証されて、何も変化はなかった。

ラーナ・スイからも聞いたので、間違いない話だろう。


しかし、子孫や住民は結界内で栽培される穀物や野菜と、帝国から入る食量しか食べなかった。

折角の検証が無駄になったのだ。

賢者が検証したことで、結界外の食べ物に悪いイメージが残り食べなくなった。



賢者は、長い間マナを浴び続けることで、人間の体に悪影響が出ると考えていた。

実際にはマソが原因で、賢者には、マナとマソが見分けられなかったのが痛かった。


街の結界は、マナとマソを通さない結界で魔物もそのせいで、寄り付かない空間を作っていた。

魔物にとってマソは必要な物だった。

結界内に入った魔物は、すぐに気付き急いでその場から離れる。


そのお陰で、強い魔物に出会うと、必死に冒険者は結界内に逃げ込むのだ。




人間も、そのマソに犯され続けると、魔物のような存在になる可能性を賢者は考えていた。

何故そう考えたのか、森でオーガを見てから賢者は、そんな考えにいきついた。


大昔から代理官や兵士を残して、いつの間にか住民が居なくなる現象が起きていた。

長く住む住民に起きる現象で、ここの生活に嫌気がさして出て行った。

そんな風に事件は片付けられていた。



賢者は、出て行った人間がオーガになったと考えた。

突然の変化に戸惑いながら、マナに引き寄せられて街から出て行ったと、賢者は推測したのかも知れない。

その意味で、結界はローランにとって必要な物だった。


ただしマソが原因だったのだが・・・



「シン様、建築班を連れてきました」


「ここは、村をメインで作って欲しい。結界も張り終わったので安全だ」


「聞いたか、村を作るぞ」


今回の建築班の仕事が、本格的な建物の建築であったので気合が入っている。


あ!俺の屋敷がまた遅れてしまった。

いつになったらボロ屋敷が改修されるのだろう。

セバスに会わせる顔がない。


又、セバスががっかりするだろう。



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