第6話結界発動




建築班と農耕地までやってくると、結界の境目に人だかりが出来ていた。


「どいてくれ!荷馬車が通れないぞ」


その人だかりから、掻き分けるようにあの門番が現れた。

その後ろからラーナ・スイも現れた。

ああ成る程、この群集はあの神殿を拠り所にしている人たちなのか・・・


「領主様の結界と言う物を見に来ました。見てもいいですね」


「見るだけなら良いが、邪魔はしないでくれ」


ようやく人だかりが割れたので、荷馬車が通れるようになり、目的地に到着。


木が切り倒された1番奥まで来ていた。

ここで結界を張れば、大きな面積が確保されるはずだ。


大勢の人達に見守れながら、作業が始まった。

中には、あざ笑っている者もいた。まだまだ信用されていないようだ。



建築班が準備をする間に、用意した鉄柱に錬金術でコーティングを施す。

錬金術の熟練度も上がり、いたって順調にコーティングが出来た。

このコーティングでサビない丈夫な鉄柱になるだろう。


そして鉄柱の先に、結界のオーブをはめ込んだ。


「ロベルト、この鉄柱を皆でここに立ててくれ。先端の球は結界のかなめだから充分に注意してくれ」


「この鉄柱ですか? 分かりました。皆手伝ってくれ」


鉄柱の根本に穴が掘られた。

そして鉄柱を支えながら、先端にはロープが張られて引張っていた。


「アルタ、引張りが弱いぞ、もっと強くしろ。ロンジーは徐々に弱くしろ」


見事に鉄柱が立っていた。

頑丈な丸太が、鉄柱の周りに打ち込まれていた。

そして丸太による固定がなされた。


鉄柱の穴のすき間には、錬金術のモルタルが流し込まれた。

3、4日で固まるだろう。


そして用意した土台を設置。その土台に鉄柱から出ている銅線を繋げて、結界の準備が整った。


それが終わると、錬金術で作った液を銅線に塗りたくった。

腐食防止をする液で、これを塗ることで雨や日光から銅線を守ってくれる。


昔あった錬金術の初歩的な薬剤の一種であった。

今は、モルタルやこの薬剤もすたれて、使われていない。


乾くのも速く、2度塗りをして効果をより良くしておく。


錬金術は個人の研究やノウハウで成り立っていた。

そして錬金術士にはギルドなども無く、横のつながりも無い職だった。

その為、折角の錬金術の研究成果やノウハウが次第に失われる結果となった。


しかし、昔は錬金術の本は存在していた。

帝都図書館の奥深くに、数十冊が残っていた。

その存在は、俺しか知らない。




後は、この土台の中心部に魔石をはめ込めば、結界が発生するはずだ。

右下には予備の魔石をはめ込む窪みもある。

この予備が使われだしたら、警告音と点滅をする仕掛けが魔方陣に刻み込まれいた。


「それは、なんですか?」


急に話し掛けられて振向くと、ラーナ・スイが真後ろから見ていた。

顔面が近かったので驚いた。しかし驚いたことは隠して、冷静に話した。


「ほら、あの鉄柱の先に有るのが、結界オーブだ。そして魔道具台に魔石をはめ込めば結界が発生する。いたって簡単な仕組みだよ。あんたが守る金色結晶にも応用出来るけど、どうする」


ラーナ・スイは、考え込んでいた。

わたし1人で即答して良いものなのかと・・・



俺が持ってきた、ブラックベアーの魔石をはめ込んだ。

その瞬間に、先端のオーブが淡く光り出した。

俺の魔眼でしか見えないが、結界がオーブを中心に空中高く形成されて広がっている。


「ギィーヤー、ギギギキーー」


何処か遠くで魔物が鳴きだしている。

そして、高い空に怪鳥が飛び回っていた。



「金色結晶にも応用出来るとは、祈りを捧げなくても機能すると言うのですか?」


「この術は、あんたの祖先の賢者の時代以降に発見された術だから、賢者も知らなくて当り前だよ」


「そうでしたか・・・」


「あんたらの宗教は、何を教えているのだ。帝国の癒しの神殿と何か関係しているのか?」


「宗教ですか?わたし達は日々に祈りを捧げるだけです。癒しの神殿とは関係していません」


「すると、人間の死骸が生き返ったらどうする」


「生き返る。それはどう言う意味ですか?」


「人間の骸骨が動き回ったりして、働いたらどうする」


「人間に危害を加えなければ、いいと思いますが・・・」


「そうですか?」


神を信仰するような物でなかった。




「シン様、お呼びでしょうか?」


「この魔道具台が雨風に晒されないよう、家を建ててくれ。それと、結界が張られたからもう安全になったことを皆にも伝えてくれ」




俺は結界オーブを見ていた。


この結界オーブは、マソの進入を防いでくれる物だった。

金色結晶の結界は、マナとマソの両方を防ぐ結界だった。

賢者の認識では、マナもマソも同じものだった。


マナは人間には有益な物だった。植物にとっても同じだった。

魔法を使うのには、マナが必要だ。

世界はマナに溢れていた。



反対のマソは有害な物だった。

人間がマソに晒され続けると、魔物のように変異してしまう。


しかしここはマナ量も異常に多く、マソも多い。


マソが溢れる土地は、魔物も多く棲み付く土地だった。



しかし、今回の結界で更に住みよい土地になった。



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