第2話鉱石を掘り出そう




この1年で、帝国直轄領だったここが、船での往来のみになったせいで、直轄領に割いていた兵士の数を減らされていた。


住民は、帝国に逆らうと物資の貿易が止められることを恐れて、逆らえないからだ。



ここの領土では、船の所有は許されていなかった。

しかし俺が領主になったので、もう関係なく船も造船できる。


ここに残されていた兵士は、120人程だ。

それに対して、住人は1万人程に膨れ上がった。


政治犯や有能だが帝国に仇なす者と判断されて、ここ【魔のローラン】へ追放された者が多い。

本当は死刑にしたかったが、政治的判断や人民の嘆願で追放することになったらしい。

そして、長い年月で人口も自然と増えてしまった。


ここで唯一の貿易商品は、魔物から取れる魔石のみだ。

ここの住民は、必死に魔物と戦い続けて生活を維持するしかなかった。




朝、早くから兵士達が訓練にいそしんでいる。


俺と一緒に来た兵士は、平民上がりだがそれなりの兵士だ。

平民上がりの兵士は、いくら実力があっても隊長クラスに上がれる者は居ない。


それが帝国の貴族階級の正体だ。

しかし俺は、連れてきた兵士を隊長に任命して「1から鍛え直せと」と命令。

その隊長達によって訓練を行なわれている。


兵士は鑑定で自分自身の恩恵を知り、才能も知らされた為に、それこそ必死に掴み取ろうと努力している。


訓練途中だが、弓を扱う兵士が徐々に的に当てはじめた。

それを見ていた周りの兵士は、やる気を起こしていた。



「カイ、風魔法の初歩の斬撃ざんげきを放ってみろ」


気合を込めてカイは、放った。

しかし放たれたのは、そよ風程の風だった。


「カイ、魔力が体中からもれ出しているぞ。魔力を手の中に集める感じで投げてみろ」


カイは、言われた通りにした。上手く斬撃が放たれた。

目標の木に「ピシッ」と切れ目が入った。


「初めてにしては上出来だ。後は頑張れよ」


魔眼で魔力の流れを見て俺なりの説明をしたが、これ以上は専門外だ。

後はカイ・ヘイモンドの努力次第だ。




そんな訓練中の兵士を見ながら、俺らは山脈の洞窟に向かっている。


「思っていた以上に大きいな」


「荷馬車1台分なら余裕で通れます。昔は曜日による一方通行と決めて貿易をしていました」


「そうか、よく考えられた方法だな。それなら落盤を撤去して通れるようにすれば良いだろう」


「そのままにしろとの命令です。上の考えることは、わたしには分かりません。あ、言い過ぎました」


「気にしなくていい。もっともな意見だ。色々と調べてみよう」


「それにしてもこんな所に、鉱石があるのですか?・・・いくら鉄不足でもこんな所にあるって、聞いたことがありませんよ」


「鑑定でなんでも分かるのさ」


俺は、魔眼のことは内緒にしている。手の内を見せびらかすのは弱点をさらけ出すのに等しい。

俺は魔眼で、洞窟内を歩き続けながら視ていた。


「ここだ!この壁を掘れば、奥に充分な埋蔵された鉱石があるはずだ」


兵士は疑い半分で掘り始めた。

兵士達が使っているツルハシやスコップは、俺が帝都の屋敷で急いで作った道具だ。

鑑定結果で、俺が追放される情報を得てから、急いで錬金術で作った初めての道具だった。


「なんなんだ、硬そうな岩盤がサクサクと掘れるぞ」


俺の錬金術も、並みの錬金術とは次元が違う物であった。


「そこでストップだ。この岩肌を見て覚えろ、この岩肌が鉱石の岩肌だ」


「これが鉱石ですか?」


「お前たちは、鍛冶職人の才能があるから、鉱石から金属を取り出して剣や矢じりを作るんだ。勿論、鍛冶場や魔高炉も作るから手伝えよ」


「分かりました。シン様」


掘り出された鉱石の山に、錬金術を施し様々な金属を取り出した。

魔眼を通して流れる魔力が、鉱石に流れて凄い勢いで分離してしまう。

それは鉄であったり、銅や微妙な金までも取り出した。


これが錬金術の本質で、錬金術たる由来であった。

金属を金には変えられないが、金よりも有用な金属を作り出せる。


伝説のオリハルコンは、魔眼の魔力を使えば簡単に作り出せる。

100%の黄金と上級魔石を均一に混ぜ合わせる必要がある。

それに配合も大事で、一言では言い表せない微妙なバランスが必要。


この知識も帝都の帝都図書館で知ったいにしえの知識だった。

伝説の錬金術士が伝説のオリハルコンを作ったと古い文書に残っていた。

そして、伝説の聖剣や魔剣を作り出していた。



「セーノ、ホレ!よっこらしょい」


「ミシ、ミシ、ミシ」


「これはやばいな、シン様、荷馬車がきしみ出しました」


鉄の塊と、銅が詰まった袋と金が入った袋で、荷馬車の耐久度80%まできていた。


「仕方ないな。今日はこれで引き上げよう」


荷馬車がゆっくりと動きだすと、兵士達もその後に付いて来ていた。

俺の屋敷の倉庫前に運び込まれて、兵士たちが次々に倉庫に運び込んだ。


「うん、そうだな明日は、建築班を連れて来るように」


「建築班ですか? 分かりました。ロベルトに言っておきます」


ここに来てから、やることが一杯だ。それでも何故か俺は充実している。

今日は、俺も働いて手を汚したが、それが新鮮だった。

この領土を出来るだけ住み易いように、俺はしてゆきたい。



強い者が弱い者から何でも奪う世界は、見ていて罪悪感しか残らなかった。

虐げられた人間にしか分からない思いだ。

それでも俺は、まだマシな生活が出来るだけ幸せなのか?



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