●黒井姫子を探す(選択肢あり)


これは黒井姫子のためじゃない。優しい雪の気持ちを汲むためだ。


「仕方ないから探してやるか!」


「うん! じゃあ早速支度しようね!」


 俺と雪は、黒井姫子を探し出すため準備を始めたのだった。


……バカ女、どこをほっつき回っているんだよ、全く……雪に心配させるなっての。



●●●


「また宜しくね」


「ええ、まぁ……」


 黒井姫子は油ぎった中年男性から、金を受け取り駅前で別れた。

もはや抵抗感も嫌悪感も無い。金がもらえればそれで良い。

すっかり彼女の貞操観念は狂ってしまっている。


 さて、今夜は大金が入ったし、美味しいものでも食べようか。

そう思っていた時のこと。


鬼村

"久しぶり! なんか色々ごめんね"


鬼村

"会って話がしたいんだ! 今までのことを謝りたいんだ!"



「ははっ……何が謝りたいがターコ」


 メッセージ入力さえ億劫な黒井姫子は、呆れの言葉をスマホへ零した。


 しかしはたりと思い起こす。

あっちが会いたいって言うなら、文句の一つでもってやろうと。


 黒井姫子は"どこで会えますか?"と返事をする。

すると彼は、いつものタワーマンション付近を指定してくる。


「まだ自分の家だって言い張ってるのかよ、はは……!」


 黒井姫子は周りの視線など気にせず、不気味な笑い声を上げながら、街のはずれにあるタワーマンションを目指してゆく。

そうして暗い夜道を、タワーマンションを目指して歩いている最中のことだった。


 突然、一台のバンが黒井姫子の真横に止まる。


「ーーッ!?」


 そして彼女はバンから出てきた複数の男に取り押さえられ、車の中へ押し込められてゆく。



●●●



「居ないね……」


「だな……」


 俺と雪は駅前を中心に、1日を通して黒井姫子を探し続けた。

しかし、狭いとはいえ、人が多く行き交うこの街で、たった1人の人間を探し出すなど無謀極まりないことだったらしい。


 夜も遅いし、今日は諦めようとということになり、俺は雪を伴って、夕飯を摂るために"カフェ レッキス"を訪れる。


「いらっしゃいませ……あっ! お久しぶりです!」


「どうも」


 普段はキッチン担当の稲葉さんが珍しくホールに出ていた。

これで今ではかなり有名な配信者で、毎週欠かさず生配信しているのだから偉いと思う。


 ちなみに稲葉さんはまだ俺が"たけピヨ"であるというのは知らない。

むしろ最近は、相談もめっきり少なくなっているので、もう俺が積極的に関わる必要ななさそうなのが現状だ。


「あら、染谷くん!」


「おっ、にいちゃん!」


 稲葉さんに案内されている最中、先に来店していた真珠さんと蒼太くんに出会った。


「こんちわ。もしかしてレシピ研究ですか?」


「まぁ、夕飯ついでにね。隣の子はもしかして?」


「彼女の雪です。こちらは貝塚真珠さんで、バイト先の店主さんなんだ」


「そうなんだ! 真白 雪です。武雄くんがいつもお世話になってます」


 丁寧に挨拶する雪を見て、真珠さんは微笑ましそうな、だけど少し寂しそうな笑顔を浮かべた。


「貝塚 真珠です。良かったら今度お二人で食べに来てくださいね」


 俺と雪は真珠さんへ会釈を返し、席へと着いた。


「さぁて、なに食べようかなー!」


 雪はキラキラした表情でメニューへ視線を落としている。


 ふと、もしも俺が違う選択をしたら、今目の前に座っているのは雪じゃなくて、真珠さんや稲葉さんだったのではないかと思った。

あの時の俺は、正直、雪にも、真珠さんにも、稲葉さんにでさえ割と強い興味を抱いていた。


「武雄くん? どうかしたの?」


「あ、なんでも……」


 いや……今更、そんなことを考えること自体、雪に失礼だと思い立つ。

 だからくだらないたられば話を考えるのは止めにする。


 これからも俺は雪だけを真っ直ぐ見て行きたい。

心の底からそう思う。



「ありがとうーございましたー!」


 稲葉さんに見送られ、店を出た頃、外は既に真っ暗になっていた。


「今日はどうする?」


 いつもの雪の問い。ちなみに昨日まで三日間ほど、雪は俺の家に滞在している。


「じゃあ、今日からは雪の家で」


「オッケー! じゃあ今夜はゲームパーティーだね」


 まぁ最近はゲームや染め物よりも、雪と割と高い確率でそういうことになるんだけどね。


 俺は雪と手を繋ぎながら、彼女のアパートを目指してゆく。


 すると、道すがらにある大きな廃神社の前へ、不気味な黒いバンが停まっていることに気がつく。


 なんだか嫌な印象の車だと思った。

なるべく離れて歩きたいと思い、車との距離を置く。

その時のことだった。


「……?」


 俺と雪は示し合わせたかのように黒いバンの近くで立ち止まった。


「もしかして雪も?」


「うん、聞こえた……女の人の声?」


 この辺りに幽霊の噂なんてあったっけ?

 気になった俺たちは息を潜めて、耳をそばだててる。


 やはり女のような声が聞こえて来ている。しかもどこか聞いたことのあるような。


 俺と雪は互いに顔を見合わせる。

そしてなるべく足音を立てないように、神社の中へと踏み込んでいった。


 この神社は公園と裏山からなる、割と広い土地を持つものだった。

子供の頃、この裏山ではよく金太と遊んだ記憶がある。


 そんな思い出の場所に、今でも女の不気味な声が僅かに響き渡っている。


 俺と雪は人の気配を感じて、咄嗟に岩陰に身を隠す。

そしてその先に見えた光景に息を呑んだ。


「やめっ……!」


「おい、被さんなよ。お前の背中なんて誰も見たく無いっての!」


 僅かな光の中、3人の男が誰かを押さえつけている。

 

 黒井姫子だった。


 なぜか彼女は男たちに押さえつけられ、必死に身を捩っている。


 この状況ってまさかーー


 雪が不安げな表情で俺の手を握りしめてきた。


 彼女は不安そうにしながらも、表情から怒りが滲み出ている。


 黒井姫子は俺にとって、もはや赤の他人だ。助ける義理は無い。

そして俺の高校時代を奪った、憎い相手でもある。


 だが、顔見知りでもある。知り合いが危機的状況に陥っているのは見過ごせない。


 いま、俺が摂るべき行動。

それはーー



★黒井姫子を助ける



★黒井姫子を助けない


_____________________


【!!注意!!】


 スクロールで次のエピソードへ進みますと必ず『●黒井姫子を助けない』になります。

別の選択の場合は、ご面倒をおかけいたしますが一度TOPへ戻り「●黒井姫子を助ける」のエピソードへ飛んでください。

なお、スクロールでは「助けないのエピソード」の後に「助けるのエピソード」が表示されます。

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