★雪ルート最終話1 これからも真白 雪と一緒に……


 黒井姫子がマッチングアプリで知り合った男性を刺殺した事件からもう一年。


 事件当初は、かなり話題となった。

大学も一時騒然とした。


 元交際相手である俺も、テレビや雑誌、見知らぬ学生にまで注目されてしまった。

かなり対応がめんどくさかった。もしも俺が1人きりだったら、潰されていた可能性さえある。


だけど、そんな俺を献身的に支えてくれたのが恋人の雪だった。


「みんないい加減にして! 武雄くんだって被害者なんだよ!? そうやって面白半分で、彼を巻き込むなんて酷い! もう彼の前でその話はしないで! お願いだから!」


 学食で興味半分の学生たちに雪が叫んだこの事件。

今では大学の有名な伝説の一つとなっている。

 正直なところ、恋人である俺も、雪のこの武勇伝を聞くたびに、恥ずかしいと思うところはある。

でもそれ以上に、雪の愛情が本物だとより確信ができる出来事だった。


 こんな感じで、雪は当時、俺の心の支えになってくれた。


雪のおかげで、俺は正気を保つことができていた。


「武雄くんは私が守るからね!」


「立場逆転じゃん……」


「良いの! たまには! だって武雄くんにはいつも笑ってて欲しいんだもん! だったら私頑張るよ!」


 この事件を契機に、俺と雪の絆はより深まった。

俺は益々、雪に惚れていった。

 と、いうよりも頭が上がらなくなった。

でも、昔みたいに雪は色々と自信をつけて、今ではほとんどマイナスなことを口にしない。

やっぱり雪は元気いっぱいで、少し不思議な空気の方が似合っているし可愛い。

俺はそう思う。


「ど、ドーモ! 雪先輩、翠先輩の後輩の稲葉と……」


「鮫島ですっ! よろしくお願いいしますっ!」


その後、新一年生として稲葉さんと鮫島さんが入ってきて、中庭のランチ会はより一層賑やかになった。

そして大学生活がもっと楽しくなった。夏には花火大会やキャンプ、冬にはみんなでウィンタースポーツを楽しんだり、パーティーをやったりなどなど……


「武雄くん、さっき兎ちゃんと海美ちゃんをエッチな目で見てたでしょ?」


「み、見てないって!」


「まぁ、男の子だから仕方ないけどさぁ……あんまりそういうことばっかしてると、また私牛になっちゃうからね!」


「もー、だからでしょ?」


「あ、そうそう! って、話誤魔化すなぁ!」


 この大学に入学したのは、そもそも不純な動機だ。

入学当初こそ、激しく後悔をしていた。


 でも、結果として、俺は大事な仲間に、そして雪に出会うことができた。

だから今ではこの大学に入学したことを前向きに捉えている。

ある意味、このことに関しては黒井姫子に感謝をしてやっても良い。


 まるで高校の暗黒時代が嘘だったかのような、薔薇色の大学生活だった。


 そして四年という在学期間はあっという間に過ぎて行き、卒業をして社会人になっても……俺と雪はずっと仲良くやっている。


●●●


「お疲れー!」


「お疲れ様ー!」


 夕暮れの駅前。

こうして仕事終わりに合流するのが社会人になってからの、俺と雪の日課となっていた。


「どうよ、最近の保母さん業は?」


「楽しいけど、やっぱ現実はきびしー!って感じかな? あーでもね、園の子たちとこの間一緒に染め物やったんだけど、すごく喜んでくれたよ!」


 雪は好きなことを好きなだけ、のびのびとすることができている。

確かに社会人特有の大変さはあるけど、こうしていつも隣で彼女が笑っていてくれるのはとても嬉しい。


「ところで、そっちは?」


「実は来週から海外事業部に異動になってさ。引き継ぎやらでめっちゃ大変」


「ほえー! かっくいい! さすがエリート商社マン!」


「いやいやエリートじゃないって。うちの会社大手じゃないし」


「でも、外国とお仕事するなんてすごいよ。さすがは自慢の私の彼氏だ!」


「あまりプレッシャーをかけてくれるな。かなり身の引き締まる想いなんだから……」


「大丈夫。私がそばにいて応援してあげるから。頑張るのだよ! ヨシヨシ!」


 雪は少し背伸びをして、俺の頭を撫でてきた。

 なんだよ、俺は子供扱いかよ……とは思うも、雪にそうされてとても嬉しいから文句は言わないものとする。


「そういえばさ、週末の準備した?」


「準備って、こっちは招待される側だからなんも無いっしょ?」


「あーそっかぁ……良いなぁ、男の人は。基本的にネクタイの色を変えるだけで良いんだもん。こっちは大変なんだよ? 美容院予約したりとかー、衣装はどれ着ようかなぁーとか。あーそうそう、ストールはね、オリジナルの染め物にしようかなって!」


「お招客がそんなに気合い入れてどうすんだっての」


「だって、翠ちゃんの結婚式なんだよ!? そりゃ気合い入れるって! 武雄だって、親友の結婚式じゃん?」


「まぁ、そうなんだけど……」


 今週末、大学時代から付き合っていた金太と翠ちゃんの結婚式が行われる。

めでたいことだった。

それに数年ぶりに、中庭のランチ会が集結するので、楽しみでもある。

結婚式本番よりも、2次会として"かいづか"で、みんなと飲む予定なので、むしろそっちの方が楽しみだ。


「良いなぁー結婚式、良いなぁー」


 最近、雪は連続で結婚式に呼ばれていて、これが口癖になっている。

そしてたぶん、これは俺へのプレシャーだ。


 こうして相変わらず仲良くはしているものの、案外お互いに忙しく、あれよあれよという間にタイミングを逃してはや数年。


 やはり今この場で……いやいや、それだと待たせた分、あまりにも雰囲気がなさすぎる。


「どしたの? 変な顔して?」


「あ、いや、なんでも!」


「もしかしてようやくプロポーズしてくれる!?」


「ば、馬鹿! 何言ってんだよ、全く……」


「あー! 馬鹿とか言った! 酷いんだぁ!」


「揚げ足取るなって……」


 決戦は二次会の後。

 みんなと再会し、楽しい余韻に浸っている中で。


 俺の鞄の中では、エンゲージリングが、雪の指にはまる瞬間を、今か今かと待ち侘びている。



 真白 雪ルート おわり1


*もう一つのエンディングを読む場合は、直前の選択ポイントまでお戻りください。

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