暴君カノジョにフラれたショックで激痩せしたら、薔薇色の大学生活がやってきた!〜彼女達は俺に染まって、俺もやがて染められて……もう元カノがどうなろうと知ったことじゃない〜
★雪ルート第4話 真白 雪の本当に好きなこと
★雪ルート第4話 真白 雪の本当に好きなこと
「こんな酷い格好でごめんなさい……ううっ……翠ちゃんのばかぁ……!」
真白さんはベッドの上で頭まで布団を被って唸っている。
「とりあえず布団から出ないか? お粥食べられないだろ?」
「中で食べますから、入れてください!」
どうやら真白さんは布団へ潜ったまま、お粥を食べるつもりらしい。
少しおっちょこちょいな彼女のことだから、絶対にこぼして大惨事になるのは目に見えている。
ならば……
「わわっ!?」
俺は勢いよく布団を剥ぎ取った。
そして素っ頓狂な声を上げた真白さんへ、匙で掬ったお粥を差し出す。
「ほら、食べさせるから」
「うう……いただきます……」
真白さんは小さな口で、お粥をぱくり。
するとすぐさま破顔する。
「おいしい……! レトルトですよね、これ?」
「ちょっとアレンジをね。醤油を足したりとか。この方が真白さん好きかなって」
おいてあった醤油が濃口だったから、少し味の濃いのが好きだと思ってアレンジしたけど、大正解だったようだ。
「はい、じゃあもう一口……」
「さ、さすがにここからは自分で食べますっ!」
真白さんは少しむすっとしたような、恥ずかしいような。
そんな顔つきで俺からお椀と匙を奪うと、お粥を食べ始める。
どうやら元気になったみたいだ。
でも、だけど顔は真っ赤っかなのは変わらない。
「ふぅ……ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
「……」
食事を終えた真白さんは、突然お椀へ視線を落とし出す。
もしかして、また具合が悪くなったんだろうか?
「無理しないで寝て良いんだよ」
「いえ……その……えっと……色々、見ちゃいましたよね?」
「見たって? ああ、お鍋の中とか勝手に見ちゃってごめんね」
「気になりますよね?」
少し不安そうな様子で真白さんが聞いてきた。
彼女のいう通り、確かにアレが何なのかは気にはなる。
だけど、こんなにも言い淀んでいるんだから、あまり無理をして聞いちゃいけないような。
「染谷さん!」
と、そこで真白さんが大声を上げた。
大きな瞳がじっと俺を見つめてきて、気持ちがそこへどんどん吸い込まれてゆく。
「ど、どうしたのかな? あはは……」
「お教えします。アレが何なんのかを……」
「お、おう……」
「私……私っ! "草木染め"が趣味なんですっ!」
まるで一世一代のカミングアウトのような雰囲気だった。
「そ、そうなんだ?」
「瓶に入っているものは全部、染め物の材料なんです! 袋の中に入っているはミョウバンで色止めに使うんです! お鍋に入っていたのは、染めている最中の生地でして……ごめんなさい、すごく気持ち悪い趣味で! 変なものばかりお見せして、本当にっ!」
なんだかやけに切迫した様子に見えた。きっと昔、何かがあったんだろう。
だから今のような態度になったんだろう。だけど、カミングアウトを受けた俺は、むしろ……
「へぇ、玉ねぎの皮でも色がでるんだ?」
俺は近くにあった玉ねぎの皮が封入されている瓶を手にそう言った。
「え、ええ、まぁ……」
真白さんは凄く驚いた様子で、俺のことをみつめている。
「どんな色になるの? やっぱり茶色?」
「いえ、黄色くなるんです。凄く明るくて鮮やかな……」
「へぇ! そうなんだ! じゃあコレは?」
興味が湧いた俺は、次々と瓶を手にしては、真白さんへ質問を投げかけていった。
最初の頃こそ真白さんは戸惑い気味だった。
だけど次第に、いつも以上に饒舌に、語り始める。
「まさかアボカドの皮でピンク色に染まるだなんて意外だったな……」
「ですよね、ですよね! 私も初めて染めた時はびっくりしちゃいました! ちなみにこの間の木花咲耶姫の衣装って、アボカド染めの生地を使ったんですよ! なかなか想像通りの生地が見つからなかったんで、じゃあいっそのことアボカド染めの生地を使ってみようって!」
「なるほどね。色がよく似ていたから、再現度が高かったんだね」
「はいっ! 頑張りました! 今、お鍋に入っているのはヨモギでして、これでストールを作ってみようかと……」
「うんうん」
「あっ……ごめんなさい……私ばかっり夢中でお話ししちゃって……」
真白さんは急にシュンとし出して、黙り込んだ。
「染め物のことになると、遂に……」
「自分の好きなことになると夢中で喋っちゃう気持ちは分かるかな?」
「そうですか?」
「それだけ好きってことだし。俺は興味深く聞かせてもらっているけど?」
「……ありがとうございます。やっぱり、染谷さんって良い人ですね……」
そう言った真白さんの表情は少し寂しげだった。
「実は私、中学の頃にいじめられてた時があるんです。丁度、その頃は翠ちゃんとは別々の学校になってて……そこで、良く染め物のことを揶揄われたんです。貧乏くさいとか、1人で山に入って変わってるとか、家に野菜の皮とか雑草がたくさんあって気落ち悪いとか、怪しい宗教でもやってるんじゃないかって、凄く言われて……だからそれ以来、翠ちゃん以外には、染め物のお話はしなくなりました……」
「……」
「それに私って、ちょっと変ですよね。言動とか、あんまり空気を読まないところとか……きっと、私みたいに変な奴は、みんなにとって目障りだったんでしょうね……」
いつも元気な真白さんが凄く辛そうにしている。
それだけ、彼女はたくさん傷つけられたのだろう。
想像しただけで胸が痛んだ。
「いつから染め物に興味を?」
俺は少しでも真白さんの嫌な気持ちがなくなるよう、話題を振った。
すると彼女は暗い表情を一変させて、笑顔を浮かべてくれる。
「私、染め物と一緒に育ったようなものなんです。お婆ちゃんが草木染め大好きで、小さい頃の私はいつもおじいちゃんと一緒に山へついて行って。真っ白だった生地が、いろんな色に染まって行くのが楽しくて、大好きで……」
真白な生地がさまざまな色に染まってゆく。
まるで染め物は、真白さんそのものであるように感じる俺だった。
「あのさ、真白さん。できたら一つお願いが」
「なんでしょう?」
「お、俺も、その……草木染めやってみたんだけど……」
「へっ……?」
真白さんはぽかんと口を開けて、少し間抜けな声をあげている。
「い、今なんて……?」
「俺も草木染めやってみたい。話聞いてたら、凄く興味が湧いたから! だめかな?」
だめ押しでもう一声。
やがて真白さんは、優しい笑みを返してきれくれる。
「本当に興味あるんですか!?」
「お、おう!」
「本当に、本当にですか!?」
「本当に本当。迷惑じゃなかったら教えて」
「分かりました。では、お教えします! なら早速!」
「ちょっと待った。今日はここまでにして置こうよ。風邪、ぶり返したら元子もないし」
「それもそうですね。ごめんなさい、空気読めなくて……」
真白さんは素直に布団の中へ戻ってくれる。
「今日はお暇するね。草木染めに関しては、真白さんが体調を完全回復させてからってことで」
「はい。一生懸命治します……染谷さん」
「ん?」
「今日はご迷惑とご心配をおかけしてごめんなさい。色々とありがとうございました」
それはこちらこそだった。
だって、ようやく真白さんの本当に好きなことが知れたのだから。
●●●
翠
"で、どうだった? 染谷君とは?"
真白 雪
"びっくりした! てか、騙すなんて酷いっ! 染谷さんに酷い格好みられて恥ずかしかったんだから! この恨みはらさずおくべきか!"
翠
"え? 恨んでるの?"
真白 雪
"ごめん、冗談。"
翠
"染め物のことを見られた感想は?"
真白 雪
"興味持ってくれた。翠ちゃん以外では初めて……"
翠
"良きかな! 頑張るんだぞ!"
真白 雪
今日はありがとう。私、頑張るよ!"
翠
"せいぜい頑張れ、恋する乙女"
翠
"近いうちにダブルデートしようね!"
メッセージは既読がついて、そこで終わった。
多少スマホに興味を持つようになったとはいえ、親友はやっぱり親友のままだと思う翠なのだった。
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