★真白 雪ルート★

★雪ルート第1話 真白 雪を知る

*本来はこちらが最初の開放ルートになる予定でした。

分岐からの繋がりに関しては、こちらの方が綺麗に見えるかもしれません。

尚、恋愛ADVを強く意識して執筆したため、共通している箇所があります。

あらかじめご了承いただければと思います。



======================



『この間誘ってくれたイベントの件だけど、都合ついたよ。一緒に行こう!』


 俺は今一番"知りたい"と強く願っている同級生の真白 雪さんへ、メッセージを送った。

するとすぐさま既読通知が表示される。


 どんだけ肌身離さずなんだよ、と思っていると、スマホが音声通話の受信を告げてきた。

慌てて了承のアイコンをタップする。


「は、はい!」


「染谷さん! ご連絡お待ちしてました! 都合をつけてくれてありがとうございます!」


 スマホから真白さんの、大きくて元気な声が響いてきた。

ちょっとやかましいけど……元気なのは良いことだし、これこそ真白 雪さんだと思う。


「待たせてごめんね」


「いえいえ!」


「じゃあ、集合場所のことなんだけど……」


「それは私にお任せください! 7時位で良いですかね? お迎えにあがります!」


「あ、ちょっと……!」


「お休みなさい!」


 なんだか物凄い勢いだった。電話を切った後でも真白さんの声が耳に残っている。

でも、もっと良く知りたいと想っている真白さんの声なのだから、全く不快じゃない。

……と、感慨に耽っている場合じゃない! 大事なことを伝え忘れている!


俺は急いで真白さんへ音声通話を返そうとする。

すると、またしても真白さんからの音声通話申請が。


「あ、あの染谷さん……よく考えたら、私、染谷さんのお住まい知りませんでした……教えてもらえませんか?」



●●●



イベント当日。俺はアパートの前で真白さんのことを待っていた。

やがて道の向こうから"ブロロロ!"と、重低音が響いてくる。


道の向こうからやって来たのは車高が高く、タイヤが太いジープのような軽自動車だった。


「おはようございます、染谷さん!」


 運転席から降りてきた真白さんは、いつものように元気な挨拶を投げかけてくる。


「おはよう。車持ってたんだ?」


「おじいちゃんのお古ですけどね。あれば色々便利だろうって。山へ行く時とか」


「山? 山なんて行く用事があるの?」


「あ、あっ! いえ! ものの例えと言いますか……あははー!」


 なんだろこの妙なリアクションは?

山へゆくのがそんなに恥ずかしいことなんだろうか?

とはいえ、本人がこういうリアクションをとっている以上、これ以上余計な詮索はしない方が良さそうだ。


「さぁ、染谷さんどうぞ! お乗りください!」


 真白さんに促され、助手席へ乗り込む。

かくして俺は真白さんの運転する軽SUV車で、イベント開催場である海浜展示場を目指すのだった。


「音楽聞いても良いですか?」


「どうぞどうぞ」


 真白さんはハンドルをしっかりと握りつつ、CDの再生ボタンを押した。

今どきCDって……やっぱり真白さんって、古風な人だと思った。


しかしそんな感想は流れてきた曲を聞いて、あっさり一蹴される。


「この歌声って……兎葉 レッキス?」


「おー! 染谷さんご名答ですっ! 良い声ですよねー。この間、翠ちゃんに動画サイト? っていうの教えてもらって、色々見てたら巡り合っちゃったんです! で、思わずオリジナルCD作っちゃったんですよ!」


「実は俺も好きなんだよね、兎葉 レッキス」


 ファンとして好き、というよりは子供の成長を見守る親心のような。

俺が兎葉 レッキスの育ての親って教えたら、真白さんきっとびっくりするだろうな。

まぁ、今は運転に集中してもらいたいから、しないけど。


「やっぱり私と染谷さんって気が合うみたいですね。とっても嬉しいです! 今日は一日楽しみましょうね!」


「そうだね」


 合流してまだ1時間も経っていないんだけど、真白さんの意外な面を知れてとても嬉しかった。

この調子で今日は、真白さんのことをもっと知りたい、と思ったのだった。



●●●



 さすが大型連休中のイベントといったところか。

展示場は多くの人で溢れかえっている。

 ちらほらとキャラのコスプレをしている人もいる。みんななかなかの出来栄えで、見ているだけでもかなり楽しい。


「あ、あの、染谷さん……ちょっとお手伝いをお願いしたいんですけど……」


「良いよ。で、何?」


 真白さんは車の背面ハッチを開けた。

そこから大きなカーテンとコンテナを取り出す。


「着替えをしたいので、カーテン持っててください!」


「え……えええっ!? ここで!?」


「だって、着替えられそうなところないんですもん! 場所を探す時間も惜しいので! だからお願いしますっ!」


「わ、わかったよ……」


 真白さんに気圧され、俺はカーテンをなるべく高く持ち上げ、車に沿ってピンと張った。

これなら中で何をしていても分からないだろう。


「しっかり持っててくださいね!」


「お、おう」


 やがてカーテンの向こうから艶かしい衣擦れの音が聞こえ始める。

この布きれの向こうでは、真白さんが……だめだ! 想像しちゃいかん、いかん!


「あっ! きゃっ!」


「ごふっ!?」


 突然カーテンが膨らんで、柔らかい感触が胸の中へ飛び込んできた。


「ご、ごめんなさい! スカートに足が引っかかちゃって!」


「そ、そうなんだ。気をつけて……」


「でも染谷さんがちゃんとカーテンを持ったままだったので、セーフです! ありがとうございました!」


 君にとっちゃセーフかもしれないけど、俺にとっちゃ十分アウトだよ。

 やっぱり真白さんって、柔らかいんだなぁ……


 いつかこんなカーテンに阻まれることなく、真白さんと今のような体勢を取ってみたい。

嘘偽りない、俺の願いだ。まぁ、この段階で絶対にそんなことは口にできないけど……


「終わりました! カーテン、もう大丈夫です!」


 言われた通り、カーテンをゆっくりと下げてゆく。


「おっ!」


「ど、どうですか? 似合ってますか……?」


 綺麗な桜色の衣装を身に纏った真白さんは、恥ずかしそうな様子で首を傾げていた。

すごく似合っている。しかもこの格好って俺の推しキャラの……!?


「もしかして木花咲耶姫?」


「大正解ですっ! さすが染谷さんです! 良い生地ができたんで、今日のために作ってみました!」


「再現度たけぇな」


「頑張りました! 私もこの子のこと大好きですし……そ、染谷さんが喜んでくれるかなぁ、と……」


「すごく嬉しい。ありがとう!」


 正直な言葉を口にすると、真白さんは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。

そんな彼女の笑顔を見た途端、胸の奥がじんわりと温かい熱をもつ。


「さぁ、染谷さん行きましょう!」


「ああ!」


 俄然テンションが高まった俺は、意気揚々とイベント会場へ向かってゆく。


 真白さんは俺のためにわざわざコスプレをしてくれた。

しかも俺の推しキャラだとわかった上で。

これってもう、そういうことって解釈しても良いんだよな……?

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