●全員といい感じなので、少し様子をみることにした。


……今のところ全員といい感じなので、少し様子をみてみることにした。


ワンチャン、全員と美味しいことができる可能性もありそうだしね。


俺はずっと黒井姫子に苦しめられていた。

その分、美味しいことをしたって良いじゃないか。

黒井姫子だって、同じようなことをしていたわけだし……俺がハーレムを目指したって罰は当たらないと思う。


 大丈夫。

今の俺にはおじさん譲りのイケメンフェイスと、スマートになった体がある。

きっと全てうまく行く。

暗黒の高校3年間なんて忘れてしまうくらいの良い思い出が作れるはず。


 目指せハーレム! ビバハーレム! 彼女達は俺のために存在している!

世界は俺を中心に回っている!


 そして翌日から、俺の奮闘を始めた。



「染谷さん、今日は一緒にお出かけしてくれて本当にありがとうございますっ!」


「いえいえ!」


 真白さんのお誘いはちゃんと受けてデートもしたし、



「助かったわ、染谷君! ありがとうね!」


「い、いえいえ!」


 夜はがっつり居酒屋かいづかで、真珠さんを手伝った。

 


「今夜もお付き合いいただいてありがとうございました。やっぱりたけピヨさんは頼りになります!」


「いえいえ……」


 深夜には兎葉 レッキスこと、稲葉さんとのお付き合いもきちんとこなす。



……正直、朝から晩までの色々な女性との付き合いがあり、体力的にきつかった。

しかし、何するものぞ! こうして頑張っていれば、美味しい思いができるの筈なのだから。



 全てうまく行く筈。バレないように活動すれば、それぞれの女性とそれぞれ美味しい関係になれるはず。


 細心の注意を払って活動していたので、それぞれの女性のそれぞれの関係を勘付かれることはなかった。

俺は頑張って、ハーレムを目指して活動を続けてゆく。



 そんな俺へ、段々と暗雲が垂れ込めてくる。



「染谷さん、今度のお休みなんですけど……」


「あ、ああ、ごめん! バイトなんだ、その日!」


「そうですか……残念です……」


 どんなに頑張っても時間は等しく24時間しかない。

大学も段々と忙しくなり始めて、遊んでばかりでは居られなくなってきた。

だからこうして泣く泣く真白さんからのお誘いを断らなきゃいけない場面が多々出始めた。


「ふぁあ……眠……」


「染谷君、仕事中なんだからできるだけあくびは控えてもらえないかしら?」


「す、すみません!」


 ここ最近、真珠さんから苦言を呈されることが多くなった。

3人の間を飛び回る日々に、段々と疲れを感じ始めたからだ。



「たけピヨさん、今日の配信は……」


「ZZZZ……はっ!? な、何?」


「あはは……お疲れなんですね。いつも付き合わせてごめんなさい……もう無理しなくて良いですよ……?」


 稲葉さんの配信中に寝てしまうことも度々あった。

そうして段々と彼女からの連絡があまり来なくなってしまった。

カフェへ行く体力さえ、この当時の俺には無かった。



……いけない、このままじゃ! このままだと、ハーレムなんて夢のまた夢! 頑張らないと!


 俺は必死に活動を続けた。

 だけど、どうしても現状維持がやっとだった。

関係の進展がなく、ただ忙しく時が流れて行くだけだった。



 やがて……真白さんからのお誘いが全くなくなった。

どうやら最近、俺以外の人で彼氏を作ったらしい。もはや俺は眼中にない様子だった。

 ちなみに金太は入学早々に、林原さんと付き合い始めて、卒業後はさっそく結婚するそうな。そのため、俺は居場所を失って、中庭の仲良しグループは自然消滅していった。


 真珠さんとは店主とバイトという関係から全く進展しなかった。

今では仕事以外では殆ど話をしない。どうして社長が後見人なのか、旦那さんはどうなっているのかは結局分からずじまいだった。

 蒼太くんも、前ほど俺に懐かなくなっていた。



 稲葉さんは、もう俺に感想や意見を求めては来なくなった。

モデレーターの指名もなくなり、俺は一視聴者にまでに地位が落ちていた。

 彼女は近く、イヤー&ウーアー夫妻のプロデュースを受けて、新しいバーチャアイドルとして、大手事務所よりデビューするらしい。





……こうして俺の大学4年間はひっそりと幕を閉じてゆく。


 何もなく、何も起こらず、ただ退屈で、怠惰な日々だった。


 二兎を追うものは一兎も得ず、とは良く言ったもの。


 ハーレムなんて目指すんじゃなかった。調子に乗るんじゃなかった。


 誰か1人に集中さえしていれば、もっと思い出深い大学生活になった筈なのに……


 しかしもう遅い。


 過ぎ去った時間はもう戻っては来ないのだから……



バッドエンド1

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