●黒井姫子を救出しない


……今更、アイツを助ける義理はない。


俺はアイツに貴重な時間を奪われたんだ。憎い相手なんだ。

だからアイツがこの先どうなろうと知ったことじゃない。

むしろ、もっと酷い目にあって、惨めに一生を終えてくれればと思う。

ざまぁみろだ。


「……逃げましょう、真珠さん。関わらない方が良いですよ」


 俺は真珠さんの手首を掴んで、耳元でそう囁く。


「……」


「真珠さん?」


「……見損なったわ!」


 真珠さんは俺の手を払い除けた。

 びっくりしている俺へ、真珠さんは冷ややかな眼差しを送ってくる。


「良い。例え憎い相手でも、慈悲の心を無くしてはダメよ。この機会に他人の不幸を喜ぶような人間性は改めた方が良いわ」


「真珠さん、待って!」


「さようなら! もう私と蒼太には関わらないで!」


 そう言い捨てて、真珠さんは黒井姫子の強姦現場へ飛び込んでいった。


……そして目を覆いたくなるような光景が展開される。


「女を男が寄ってたかって! ふざけるんじゃないわよ!」


「ぎややぁぁあーー!!」


 真珠さんは般若のような形相で、黒井姫子を襲っていた男達を次々叩きのめしてゆく。

 かなり喧嘩慣れをしている様子だった。


「ゆ、ゆるひて……」


「もう二度と、ソレを使い物にならないようにしてあげるわ、ふふ……」


「ひぎゃぁぁぁあ!!!」


 こうして男達は、真珠さんの手によって血だるまにされ、黒井姫子は間一髪のところで救出されたのだった。


ーーだがいくら強姦されかかっていた黒井姫子を助けるためとはいえ、真珠さんは男達に一生傷の残るような怪我を負わせた。


 結果、真珠さんは自ら警察へ連絡を入れた。

男達も捕まり、黒井姫子は無事に保護をされる。

そして、男達へ大怪我を負わせた真珠さんもまた、警察に逮捕されるのだった。



●●●



「なんで、てめぇが近くにいながら……なんで真珠を止めてやれなかったんだ、大馬鹿者! ガッガリだぞ!」


 真珠さんの親代わりである白銀社長に物凄く怒られた。

それっきり、社長との縁は切れてしまった。

 金太たちも一応理解は示してくれたが、内心はどう思っているのかは分からなかった。


 裁判の結果、真珠さんは刑務所への服役を余儀なくされた。

居酒屋かいづかは、店主を失い、人知れず、ひっそり暖簾を降ろした。

蒼太君は真珠さんの出所まで、白銀社長が預かっているらしい。


 いくら真珠さんに面会を頼んでも、未だに頑なに拒まれている。

こうして俺と真珠さんの関係はあっさりと終わりを告げるのだった。


……しかし、ことはこれだけでは済まなかった。


「これって……黒井姫子じゃ……?」


 ある日、俺はネット上にアップロードされた、黒井姫子のエロ動画を発見してしまった。

かなりの数がアップロードされていて、その界隈ではかなり話題となっていた。



「あのさ、知ってる黒井さんって……」


「自殺したんでしょ? 踏切に飛び込んだとか……」


「まぁ、あんな動画が広まっちゃねぇ……」



 既に黒井姫子はこの世には存在していない。

しかし今でも、奴のあられも無い姿はネット上に残り続けていて、日々たくさんの男達の欲望の吐口にされている。




……もしもあの時、俺が憎しみに囚われず、黒井姫子へ慈悲の心を持ってさえいれば、アイツが命を落とすことはなかったのだろう。

そして俺は真珠さんと幸せな日々を送っていたに違いない。


 しかし後悔しても、もう遅い。


 過ぎてしまった時間は、取り戻せないのだから。


 俺は人としての選択を誤ってしまったのだから……



バッドエンド2

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る