第12話 真白 雪が染まり始める時



「なぁ、金太」


「なんだよ?」


「お前、林原さん狙いだろ?」


「なっーー!?」


 本当、金太ってわかりやすいやつだよなぁ。

なら、親友として一肌脱いじゃおうかね!


 俺達がいつものように、中庭の花壇へ近づくと、


「むむ、この気配は……そーめたーにさーん!」


「だ、だから雪! 大きな声出さないでって! 恥ずかしいって!」


 いつもの調子の真白 雪さんと、友達の林原 翠さんだった。

 こうして一緒に昼飯を食べるようになって、大体一週間くらいだろうか?

今ではこうして四人でお昼を取るのが習慣になっている。


「染谷さん、染谷さん! 今日は染谷さんへプレゼントがあるのです!」


「ほほう。それは楽しみ」


「ぬふふ……驚くことなかれ……!」


 真白さんは不敵な笑みを浮かべつつ、弁当とは別の包みを取り出した。

 つるむようになってわかったのだが、真白さんは少々個性的な性格だ。

でも楽しいし、可愛いから良いアクセントになっていると思う。


「ジャジャーン!」


「ウィンナー!? しかもこんなにたくさん!?」


 大きなタッパーには、夥しいほどの数の真っ赤なウィンナーが、これでもかと敷き詰められていた。


「昨日、スーパー業務で特売だったんです! 1kg入りが格安で!」


「だからって、全部持ってくる必要ないでしょ!?」


 相変わらずの鋭い林原さんからのツッコミだった。

実はこの2人って、コンビを組んでお笑いに進出した方が良いような気がする。


「さっ、染谷さん! 先日、ウィンナーを分けてくださったお礼です! 遠慮なく全部食べちゃってくださいね!」


「お、おう、それじゃ……ありがたく」


 せっかく真白さんが俺のために用意してくれたんだから無碍にはできない。

今夜もしっかり走り込みと筋トレしとかないと。


 と、一応順調な俺の脇で金太はーー


「は、林原さんって……」


「ん?」


「なんか昔スポーツやってた……?」


「まぁ、高校の時はバスケを……」


「そ、そうなんだ! 実は俺も! そっか、だからそんなに引き締まった、良い身体つきしてるんだね」


「あ、ああ、それはどうも……」


 おい、金太、せっかくの共通の話題なのに、そのセクハラ親父みたいな聞き方はまずいぞ。

林原さん結構引き気味だし……だけど頑張れ、金太! 俺はお前の味方だぞ。


 不意にスマホが震えた。

なんだと思って取り出してみると、ゲームアプリからの通知だった。

俺としたことがうっかりしてたぜ。さっさとログボを頂かないと……そうしてスマホをいじり始めると、俺の手元を真白さんがじぃーっと見ていたことに気がつく。


「どしたの?」


「いつも疑問に思うことがあります」


「なんでしょ?」


「最近の人はみんなすぐにスマホを弄りますけど、一体何をしてるんですか? そんなに弄りたいものなんですか?」


「ご、ごめんね染谷くん! 雪、昔から携帯とか割と放置するタイプでさ」


 すかさず林原さんのフォローが入った。

別にそこまで気にして無いんだけどね。


「染谷さんだから聞きたいんです! みんなどうしてスマホばっかりいじるんですか!?」


「そうだなぁ、人それぞれなんだけど、俺の場合はゲームをするためかな」


「ゲーム!? スマホでゲームなんてできるんですか!?」


「あ、えっと、この子、高校の時までずっとガラケーだったの! でも対応機種が生産中止になって、ようやくスマホに……あたしたちの地元、結構田舎で、ガラケーでも十分で」


 なるほど、真白さんと林原さんが妙に純朴なのは、これまでの生活環境の影響なのか。


 なら、これを見せたら驚くだろうな、と今から心が沸き立ってくる。


 俺はゲームアプリを起動させて、真白さんへオープニング画面を見せつける。

彼女は驚いたように目を見開いて、画面を食い入るように見つめている。


「す、凄い! こんなに小さいのにプラステより綺麗です!」


「この子の実家、まだまだプライムステーションONEが現役で……」


 おお、プラステのONEとか懐かしい!

小さい頃親父と良くやったなぁ。


「それで染谷さん! これはどんなゲームで!?」


「ええとだな、こうしてキャラクターを選んでメンバーを設定して、クエストに向かって、この球みたいになったキャラクターを弾いて敵と戦って……」


「イザナミ……クシナダ……? あの、このキャラクターってもしかして古事記の……?」


「そっ。このゲームのキャラクターのほとんどが、神話とか歴史上の人物がモチーフだったり、中には概念とか思想とかもキャラクターになっているんだ」


「近くで見ても良いですかっ!?」


「お、おう」


 ち、近い……! そして真白さん、やっぱり良い匂いがして柔らかい……!


 真白さんは俺へピッタリ肩をつけて、食い入るように俺のスマホの画面をみつめ始める。


「どうすればもっと詳しく見られますか!?」


「き、気になるキャラクターを長押しすれば……」


「そうですか! じゃあ、これ……きゃーっ! なにこれなにこれなにこれ! アーサー王が女の子だなんて! きゃーきゃー! グィネヴィアも女の子って……じゃあどうやって、モルドレッドは……むむっ……」


 えらいハイテンションな真白さんだった。なんか、歴史上の人物とか、そういうのに興味があるらしい。

俺の方へ大きな胸をグリグリ押しつけていることも知らずに、ただただ画面をタップし、興奮している。

やばい、俺も別の意味で興奮しそうな……


「凄いよ、これ凄いよ翠ちゃん!」


「あのさ、前にあたしがやってるところ見せたと思うけど?」


「そうだっけ?」


「はぁ、もう……この原始人め」


「原始人は酷いよぉ〜! あの、染谷さんっ! 私もこれやりたいですっ!」


 おおっと、これは良い展開だ。

どうやら林原さんもこのゲームは嗜んでいるらしいし……


「おい金太、まだお前のアカウントは現役か?」


「も、もちろん! 元お年玉廃課金プレイヤーを舐めんじゃねぇ!」


 よしよし、ならばーー!


「じゃあ新人の真白さんも加えて、4人でマルチプレイしようか!」


「やろう翠ちゃん! やろうっ!」


「わかった、わかったからあんまり大きな声出さないで! 恥ずかしいからっ!」


 俺は早速、真白さんへアドバイスをしながら、同じゲームアプリを導入させた。


「やったー! これで私も仲間入り!」


 本当、真白さんは、こうして素直なリアクションをしてくれるので、見ていてとても気持ちがいい。


「兼田さん、雪のフォローお願いします」


「おうよ。迫撃は林原さんに任せた!」


「任されました!」


 さっきまで少し気まずい雰囲気だった金太と林原さんだけど、ゲームを通じて多少は距離が縮まったようにみえる。

頑張れ金太! これはきっとお前にとってもチャンスだ!


「わぁ!? ど、どうしよう、染谷さん!」


「大丈夫。俺がなんとかする! 真白さんは絶対にやらせないっ!」


「よろしくお願いします!」


 真白さんは本当に可愛いと改めて思った。

 黒井姫子とは全く違う、明るくて、良い子なんだと思った。


「染谷さん! これ面白いですね!」


 こうして自分の好きなことに、誰かが興味を持ってくれるって、凄く嬉しいことだと思った。



 まだ女性っていうのがよくわからない俺だけど、真白さんだったら……だから、もっと距離を縮めたい。彼女との距離を……

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