第2話 薔薇色の大学生活を目指して!


「俺、一人暮らししようと思うんだ!」


 俺はすぐさま両親へそう伝えた。

 進学先は地元で、実家の近くなので、一人暮らしをする必要はない。

だけど、何かを変えたかった俺は、まずは生活環境を変えることにした。


 最初は驚いていた両親だっだけど、"頑張りなさい"と後押しをしてくれた。

とはいえ、ただでさえ高い学費を両親に支払って貰っているんだ。

俺のわがままで、これ以上の経済的負担はかけられない。

しかし黒井姫子との交際のせいで、俺の所持金はゼロに近い。


そこで俺は、親父の紹介で大学開始までの1ヶ月間、金払いの良い建設現場でのアルバイトを始めることにした。


「おらーもやし! 早くしろっ!」


「う、うっす!」


「もやし、こっちもだ!」


「お、おーっす!」


「根性あるじゃねぇか。んじゃ、どんどん行くぞぉ!」


「うおっす!!」


 建設現場のバイトは肉体的にめっちゃキツかった。だけどこうして体を動かして、汗を掻いていると、心地よい充足感を得られた。

最初は現場の職人さんたちにビビっていた。

だけど段々とみんな、おおらかで優しく気持ちのいい人たちだとわかり始め、居心地が良くなった。


「てめぇら、いい加減、コイツのことをもやしなんていうんじゃねぇ! コイツは"染谷 武雄"ってご両親が名付けた立派な名前があんだ! ちゃんとそう呼べってんだ! バカ野郎どもが!」


 特に気持ちがよかったのが、この現場を仕切っている建設会社の社長さん「白銀 源三郎」さんだった。

第一印象は熊でも素手で倒したそうな、ヤの付く人。

仕事には厳しい。でもおおらかで、優しく、みんなをきちんと公平に見るとても良い人だった。


「おーっし、武雄、飯行くぞ」


「うっす!」


 どうやら白銀社長は俺のことを気に入ってくれたらしく、コキ使いつつ、よく飯に誘ったりしてくれた。

 親父と仕事上、縁の深い人ってのもあるらしいんだけど……


「なかなかうちは子宝に恵まれんでよ。なんか、武雄とこうしている息子ができたみたいでな……こんなオッサンの悪趣味にいつも付き合ってくれて、ありがとな」


 俺も男気溢れる白銀社長が大好きだった。


 だからキツイ建設現場のアルバイトも頑張れたのかもしれない。


 白銀社長が奢ってくれた飯(肉中心)、そしてハードな肉体労働ーーそれらをガッツリ吸収した俺は、痩せ細ったもやしから、いい具合に引き締まった、いい感じの身体を手に入れていた。

鍛えられた体は、俺へ益々自信をつけさせた。


 そしてあっという間に、俺のバイト生活は終わりを迎えた。

社長が色を付けてくれたのか、報酬はかなりの額となった。


「武雄、よく頑張ったな。これから楽しい大学生活だ。後悔しない4年間を過ごすんだぞ!」


「うっす! あざーっした!」


「た、たまには俺と飯へ行ってくれたら嬉しいな……?」


「もちろんですよ! 社長は俺の第二の親父っす!」


「くぅー!……泣かせんなぁ! このクソガキっ! とっとと行きやがれっ!」


 陽気は既に最盛期。

 周りには鮮やかな桜が咲き誇っている。


 同じ大学には黒井姫子がいる。

 だが、あいつのことはもう関係ねぇ! 勝手にしやがれ! これからは俺の時間を過ごすんだ! 後悔のない大学生活を送ってやるんだ!


●●●


「よし、いい感じだ!」


 俺は細身のダークスーツを身に纏った自分を見て、自分自身へそう声をかけた。

髪型を適度に決め、いざ"英華大学"の入学式へ!


「おおっと! そうだ、ログボ、ログボ……今日のログボっと……」


 と、今日はまだログインボーナスをもらっていないことを思い出し、スマホを取り出して、ゲームアプリを起動させた。


 やっぱりこうして自由にゲームができるっていいなぁ。

今日から春アニメが順次始まるし、帰ったら早速チェックしないと!

ああ、そういえば今日だったか、パンダイプレミアムからマイパンの緋色のフィギュアが届くのって……早く、緋色ちゃんに逢いたいなぁ!


 こういう趣味に関しても、もう遠慮する必要はない。

俺は肉体的にも、精神的にも生まれ変わった。だけど、大好きなアニメやゲームはやめる気はない。

だってやっぱり俺は、こういうのが昔から大好きなんだから!


 明るい日差しの元、俺はすっかり軽くなった体で颯爽と道を歩んでゆく。


「うわぁ……あの人、めっちゃイケメン!」


「アイドル? 俳優さん? ニャンスタあるかなぁ……」


「今日も朝からご尊顔をありがとうございます……ナムナム……」


 道ゆくたびに、こんな反応をしてくれる人が多い……嬉しいのは確かだけど、やっぱり慣れないのは、まだまだ俺の心が弱いからんだろう。この程度でオドオドしてちゃ、高校時代の二の舞になっちまう。

俺には叔父さん譲りのいい顔が、白銀社長に鍛えられた身体があるんだ。

もっと自信を持たないと!


 俺は胸を張り、背筋を伸ばして、"アイツ"との待ち合わせ場所へ急ぐ。

 

 "アイツ"と再会するのは中学の時以来。

待ち合わせ場所は昔懐かしの桟橋の前だ。


おー、いたいた! 3年ぶりの再会だけど、金太は全く変わってないなぁ。


「よっ! お待たせ!」


 俺は中学の時同様、桟橋の前で待っていた"兼田 金太"へ声をかけた。

奴はスマホから視線を上げるなり、首を傾げる。


「あの、どちら様……?」


「どちら様って、お前の親友の染谷 武雄だけど?」


「は……はぁ!?」


 金太は舐めるように俺を見渡してゆく。

やがて若干頬を引き攣らせつつも、俺が"染谷 武雄"と認識してくれたらしい。


「ず、随分変わったな? てかめっちゃ痩せてるし……」


「まっ、いろいろ思うところがあってね」


「そっか。今の方がいいと思うよ。なんとなく垢抜けているっていうか、いい感じになったっていうか!」


「サンキュ! そいじゃいこうぜ!」


「おう」


 俺たちは3年ぶりに、同じ通学路を歩み始める。

 俺は黒井姫子を重視するあまり、自分で人生を狂わせてしまった。

だけど唯一良かったのが、また親友の金太とこうして、学生生活を送れることだ。


「にしてもよ、驚いたぜ。まさかタケが同じ大学だなんてな。お前じゃ、もっといい大学めざせたんじゃね?」


「あはは……それに関してもいろいろ思うところがあってね……」


「なんにせよ、また同じ学校に行けるってのはめっちゃ嬉しい! また宜しくな!」


「おう、こちらこそ。実は俺、一人暮らし始めたからさ、今度遊びに……」


 ふと、金太が立ち止まり、土手の方へ視線を向けていた。

気になって俺も同じ方を見てみる。


 すると土手沿いで、真新しいスーツ姿の女の子が2人、きゃあきゃあ何か騒いでいるのが見えた。


「やめなって! 諦めなって!」


「ヤダ! ダメっ! ううーん!」


 短髪の女の子が、色白の長髪の女の子の腕を必死な様子で引っ張っている。

どうやら長髪の女の子は、川に落ちた何かを拾いたいらしい。

だけど彼女の身長では、どうにも届きそうにない。

真新しいスーツを泥で汚せば、なんとかなるのだろうが……


「ちょっと行ってくる!」


「お、おいタケ!」


 ここで会ったのも何かの縁。

俺は軽くなった体で、颯爽と土手を駆け降りてゆく。




*続きが気になる、面白そうなど、思って頂けましたら是非フォローや★★★評価などをよろしくお願いいたします!


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