第13話 魔法の真髄
まずは「魔法学」、担任のアルゼラ先生による授業であるが魔法に関する全般的な知識を網羅するといった感じの内容である。
そして武器の使い方や戦闘の技術を教えられる「騎士学」、魔法学と比較すると実践的なタイプの授業だったが座学はともかく実技ではクラスの皆にも得意不得意が目に見えて現れていた。
フエルやローディは苦手そうにしていたもののヴェルはむしろ得意分野といった具合である。
王国の歴史を学ぶ「歴史学」、これは何とも退屈な授業であり、貴族が如何に王国を栄えさせてきたか云々をクドクドと説明する内容だ。
また他には植物やキノコを使って薬を生み出す「薬草学」。
魔法陣の構築や、保有魔力から発動できる魔法を算出できるようになるための「魔法数学」。
魔力を大量に宿した生物、いわゆる"魔物"に関する「魔生物学」。
エルフやドワーフといった少数の人種とその文化に関する「文化種族学」等々……。
「では今日の魔法学の授業を始めたいと思います」
そうして今日の魔法学の授業が始まる。
「今日は魔法の体系について詳しくやっていこう。前回は少しだけ入ったけど覚えてるかな? ……それじゃあユーズ、君はどうかな?」
アルゼラ先生は少し間を置いたあとに俺を指名した。
それを聞いて席から立ち上がる。
「はい。属性魔法、生命魔法、霊魔法の三つです」
「その通り、今言ってくれたようにこの三種が最も基本的な魔法の分類とされている」
生命魔法はざっくり言えば肉体へ影響を及ぼす種類の魔法を指す。
傷を治す治癒の魔法や身体能力を魔力によって強化する肉体活性化魔法がその代表である。
霊魔法とは幻覚や洗脳といった危険な呪いを含む、精神に影響を及ぼす魔法のことだ。
しかし召喚魔法もこれに該当するため一概には言い切れない。
そして……。
「中でも属性魔法は皆さんに一番関わりがあるだろうね。全部で六属性ある、と
この説明の中、教室の注目が自分に集まったかのような錯覚を覚える。
「けどヨーゼル校長はこの原則に当て嵌まらず、全ての属性を操ることのできる唯一無二の魔術師と言われていることは皆も知っているかな。なのでこの場の皆にも常識に囚われず、魔法の腕を磨いてほしいんだ」
アルゼラ先生による間接的なフォローが入った。
何となく自分の存在が肯定されたように感じて、単純にありがたい。
「そして属性魔法の中にも先述した生命魔法や霊魔法に酷似した効力を及ぼすものが時折見られる。だから学界ではこの三つの分類分けを疑問視する声も見られるけれど、覆すだけの有力な説が成り立っていない以上、今はこれが正しい分類となるね」
教室にカリカリと羊皮紙に羽根ペンを走らせる音が聞こえる。
皆、アルゼラ先生の授業は一様に真面目に受けているのだ。
どうもアルゼラ先生は不思議なカリスマというか生徒に聞かせる力があるらしい。
「ま、これは余談だけど霊魔法を他の生徒にかけることは厳罰に処される。呪いの一種であるということはよく覚えておいてほしい」
それはそうだろう、学校内でそんなことが許されれば重大な犯罪が起きかねない。
「じゃあさらに属性魔法について細かく見ていこうか。属性魔法とはそもそも魔力を
「この六属性の魔法にはそれぞれ位階が設定されてて、恐らく皆が大抵入学試験で使う魔法は最も低い第一位階のものになるかな」
入学試験の時に受験生たちが放っていた魔法、
これら第一位階の魔法は
「といってもこのタイミングで第二以上のものを扱える生徒は極少数、だから使えない人もこれから焦らずにじっくりと鍛えていこう」
第二位階の使い手は既に何人か見ている。
一人はヴェルだ、彼女の使用する
もう一人はアリウス・ハイランド。
彼の場合は火と水の二属性の第二位階魔法を発動させていた。
しかも光で異空間を生み出したあの魔法は第三以上に属する高等技術だろう。
そうして今日の魔法学の授業は過ぎ、暗記すべき位階魔法の種類とそれらの特徴を言い渡された。
「ユーズ」
「はい」
授業後にアルゼラ先生から呼ばれる。
「君が入学試験で見せたというものは恐らく第四……いや第五位階に相当するかもしれない」
「え?」
「僕が話を聞いての感想だよ。もちろん氷の魔法は今まで検証されたことのない未知の魔法だから既存の属性と同じように分類できるかも疑問だけど……君はずば抜けて
「は、はぁ……」
突然褒められた後に含みのある発言をされて、何だか困惑してしまう。
「君はヨーゼル校長のように魔法の真髄へとたどり着く素養があるのかもしれないね」
「魔法の……真髄?」
俺が聞き返すとアルゼラ先生の目が笑みをたたえたような気がした。
そして小声で―
「キャゼルから聞いたよ、君が前に彼とトラブルを起こしたことを」
「それは……確かに」
彼にチクられたのだろうか、あの行動は後悔していないが学校への報告で、何か面倒なことになってしまったのか。
「安心してほしい。校長先生は君の行動の正しさを分かってくれた」
「それってどういうことですか?」
「大丈夫。君に不利益なことは何もない」
そう言うとアルゼラ先生はニコリと微笑み、俺の手の中に何かを置いた。
「君の正しい行動に対する報い、と言っても少ないけど……とっておいて」
手を開けて見ると、そこには銅の
「……」
別に報酬のためにやった訳じゃない。
しかし正当な行動を認められた―この学校では家柄だけで行いの正しい悪いが決められる訳じゃないとわかって嬉しかった。
「ユーズ? 先生と何を話していたんだ」
「あぁ、ヴェル。いや入学試験のことを言われただけだよ」
「そうか。何だか先生が珍しく嬉しそうな顔をしていたからな、気になってしまった」
「……確かに珍しいな」
魔法の真髄とは何なのだろう?
アルゼラ先生から言われたその言葉が俺の頭の中では巡り巡っていた。
「校長、客人がいらしたのですか?」
「ハルファスか。いや、入学式の日に行われたレースの結果を不服だという父親がやって来てな」
校長室で校長ヨーゼルと教頭ハルファスが会話をしていた。
「あの最下位から十人が退学処分となるレースですか。しかしあれは王国評議会から圧力がかかり、実行せざるを得なかった。不服があろうとそう簡単に覆るものではありませんが」
「不服を申し立てたのは評議会と繋がりがあると噂される有名な男じゃよ。ディアトリスじゃ」
「なんと。では何かしらの目的があってレースを仕組んだが目論見通りに行かず、むしろ逆の結果になったと」
「そういうことじゃろうな。誰か追い落としたいと考えてる生徒がいたのじゃろう」
ヨーゼル校長は髭を撫でながら生徒の名簿を眺めていた。
「……しかし何にせよ、気に入らぬ他者を蹴落としていこうという姿勢ではな。ましてやそのために権力を使うなど」
校長の呆れたような、憐れむような、そんな呟きが小さく漏れた。
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