第11話 授業開始
そして入学式の日、セルシウス家では―
「まぁ、そんなことがあったの? でも無事に終えて良かったわ」
「そうか、学校でも活躍して何よりだなヴェル」
夕食の家族団らん、俺はその時間に招かれ共に食事をしていた。
セルシウス家に正式に仕えてからというもの一緒に食事をするなど恐れ多くて断っていたが、今日はヴェルの少々強引な誘いに根負けした。
「少し危ない時もあったがユーズが身を挺して守ってくれた。私に怪我がないのはユーズのお陰だ」
「そうか、それは礼を言おう。その調子で学校でも娘をしっかりと守ってやってほしい」
「もちろんです旦那様」
旦那様は俺の即答を聞くと満足そうにうんうんと頷いた。
だが俺はその返事を現実のものとするためにもっと強くならなければならない。
あのアリウスは本気を出していなかった。
無論、俺も零華を使わなかったので互いに手の内を明かさない戦いではあったが……。
お互い本気でやり合っていたら実際にはどうなっていたか。
「ヴェルは無茶する子だから……いつも見てあげて頂戴ね、ユーズ」
「無茶って……別に私は無茶なんて」
ムスッと拗ねたように身体を背けるヴェル。
確かにレースではガンガン進んではいたから少し無茶と言えなくもないが、それは彼女の高い実力に裏付けされた自信の表れとも言える。
「大丈夫です奥様。責任をもってヴェルを見ていますから」
その返事に奥様はニコリと笑ってくれた。
俺はあくまで護衛で雇われの身だが―それでもこの環境は暖かく感じた。
________
翌日、快晴の朝に俺たちは屋敷を出て
今日からは正式に授業が始まるのだ。
「ヴェル、ユーズ。おはようございます」
「おはようローディ」
いつも通りローディと合流する。
この流れにも何だか慣れてきていた。
「? ローディ、どっか痛いのか?」
「え? あぁ……いえ昨日の疲れが残っちゃってて……。ヴェルとユーズは何ともないんですか?」
「私は平気だが」
「まぁ俺も……」
冷静に考えれば昨日のレースはそれなりにハードなものだった筈だ。
俺はああいったスタミナ消費には慣れていたから平気だが、ローディのようにハードワークが得意でない者は当然ながら疲れも残るのだろう。
「よぅ、氷使い。また会ったな」
「ああ、えっと……ハルクだっけ?」
相変わらず暑苦しいビジュアルだが大体の生徒たちが俺を避けている中、わざわざ話かけてくるのは何となく好感を持てる。
「なるほど、お前たちはホワイトクラスか」
そう言うハルクの上着にはキラリと光る
「アンタはイエロークラスか」
「そうだ、まぁ違うクラスではあるが是非仲良くしたいものだ。それにいつか戦ってみたいしな」
あのレースで俺たちよりも早くたどり着いた人間なのだ、当然ながら実力者には違いあるまい。
「後そこのセルシウスともだ」
「私か?」
「聞いているぞ、セルシウス家の一人娘はかなりの使い手だとな」
「ふっ、そんな噂はともかく挑んでくるというなら受けて立つぞ」
「よーし言質を取ったぞ。ユーズにセルシウス、楽しみに待っていろよ」
そう言うとハッハッハと笑いながらハルクは去って行った。
まぁ悪いやつではないんだろうが……。
「う〜ん、見た目だけじゃなくて中身も暑い人でしたね」
「言ってやるなよローディ、ありゃ素だぜ」
恐らく本心からああいう態度なのだ。
それはそれでスッキリしたタイプの人間なのではないだろうか、アイツは。
そうして俺たちはホワイトクラスの教室へと入る。
既に多くの生徒は席に着いており、昨日と同様中にはジロジロとこちらを見るのもいた。
(奇異の目はしょうがないか。むしろハルクみたいなのが特殊なんだもんな)
おまけに有名な家系であろうヴェルと常に一緒に行動しているのだ。
彼女の美貌も考えれば衆目を引くのは当たり前とも言える。
ただセルシウス家はあまり仲の良い貴族が多くないようで、積極的に話しかけてくる人間はそう多くない。
「えー皆おはよう」
そうこう考えている内に教室にアルゼラ先生が入って来た。
「昨日はお疲れ様だったね。ホワイトクラスでは残念ながら二人居なくなってしまったけど仕方がない、その代わりに
先生がそう発言した瞬間、こちらへと注目が集まる。
確かに
「と、昨日の話はそれまでにして……早速今日から授業が始まる。ちゃんと集中して聞くように」
アルゼラ先生が教科書を取り出して皆にも出すよう促す。
「はい、それじゃ魔法学の授業を始めます」
魔法学担当の先生はそのまま今日最初の授業を開始した。
「まぁ、君たちは今まで学んだことがあるから大丈夫だとは思うけど、一応基礎から説明しよう」
何だか飄々とした語り口で先生は授業を進める。
「えーまず魔法を使うために必要なもの、それが魔力。魔力とは生物の身体や物質を構成する元素の一端だ。その含有量や割合はものによって違えど、この世界のあらゆるものは魔力を持っている。そしてこれを利用した技術が魔法という。生物の場合もともと備えている魔力の量は個体差があるし、経験や鍛錬によってそれは増加していくから、この場に居る皆一人ひとりの扱える魔法のレベルは当然差異が生じるね」
全くの基礎的な内容、筆記試験の内容を復習しているような感じだ。
「そして魔法を発動するのはどういった理論なのか。まず体内の魔力を発動したい魔法に対応して変換・処理する作業が必要になってくる、これを
講義室の前にある大きな黒板に文字が次々と書かれていく。
「そうして
するとアルゼラ先生は人差し指を上に向けて小さな火を灯した。
今のは体内で魔力を火に
「この
今のアルゼラ先生の実演がいい例だ。
だが無詠唱魔法は余程鍛えなければできない高等技術、俺はまだ魔法の扱いを始めてからは精々三週間しか経っていないので中々難しい。
何より無詠唱よりも詠唱したほうが実際に魔法の威力・効力は増す。
「魔法には身体能力を向上させる
「えー、次は魔法陣を必要とする魔法について。これらは人が発動する場合、体内の魔力では質量が足りない為、魔法陣を構築することで周辺の魔力を取り込むというシステムになっている。主に召喚魔法や空間転移魔法などが該当するね」
要するに大量の魔力を必要とする類いの魔法は大気中や周辺の物質に蓄積している魔力を利用して質量を補うのだ。
「実例を見せようか」
先生が黒板に陣を描き出す。
まだ只の幾何学模様だが外側を二重円で囲み、その中に魔法言語を描き加えれば話は別だ。
「では……そうだな……。アーセルド君こちらに来てみてほしい」
「えっ、俺ですか?」
「そう、黒板の前に立って」
一人の生徒が指名されて前へと立つ。
先生が魔法を発動させると彼の姿が光に包まれて消えた。
すると彼は教室の一番後ろまで移動していた。
「今のが空間転移魔法。この教室の前から後ろまでの距離情報を陣に書き込んだ、この程度ならばそれほど消耗することなく使える。さ戻っていいよ」
にわかにザワつくクラス、空間転移魔法はかなり高度なレベルの魔法だから個人が実際に発動させるのは珍しい光景だ。
やはりこの学園は学ぶことが多い。
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