第9話 好敵手出現
「お前がユーズ、だな? 悪いがお前を先に進ませるわけにはいかない」
「誰だか知らねぇが……単独ご指名とはね」
突如として自分たちの前に現れた美青年。
俺を狙って襲撃して来たらしい。
「……誰だ貴様、ただ者ではないな」
ヴェルが弓矢を引いて狙いを定めつつ、相手の素性を問いただす。
「お前たちに用はない、俺の狙いはユーズ一人」
「!」
目にも止まらぬスピードで男はヴェルの後ろへと回り、その剣を振り上げる。
(しまった! 斬られ……)
「……ほぅ、女を庇ったか」
「ユーズ!」
しかしその動きを予測していたユーズはヴェルへの斬撃を防いだ。
「お前の狙いは俺だと言ったな。ヴェルとローディには手を出すな」
「なるほど、もっともだ。だが随分と甘い」
凍りつくような眼光がユーズを鋭く射抜く。
今まで会ったことのある人間でコイツより強いやつは居ない……ユーズにはその確信があった。
「思い出しました……アナタ、"アリウス・ハイランド"ですね」
「ふ……よく知ってるな」
「……アリウス・ハイランド?」
「かつて神童と呼ばれた人物です。ハイランド家は昔から何十人もの天才的な騎士や魔術師を輩出して来た家系ですが……その歴史の中で最も才能に溢れた優秀な少年が居たと話題になったことがあります」
「わざわざそんなプロフィールを記憶してるとは、えらく真面目なやつだ」
それほどの才能があると言われた人物ならば頷ける。
身体からよどみなく溢れる魔力は常人のそれを遥かに凌ぐ、ヴェルよりも強大だ。
「で、その天才さんが俺に何の用だ」
「ハッキリ言おう。俺はお前のようなやつが許せない、貴族でもない平民が何故こんな場所にいる? それだけでお前を潰す理由には十分だ」
「……そうか」
俺は剣を抜く。
するとそれを見たアリウスは左手を上に挙げて魔法を発動させた。
『魔光結界』
「……!?」
「眩しい……!」
辺りがまばゆく輝く。
そうして気がつくとユーズとアリウスは屈折したガラスのようなものに囲まれた謎の空間に立っていた。
「これは……」
「"光"の魔力による異空間だ。外とは互いに視認できるが物理的に干渉することはできない、これで心置きなく戦える」
「舞台まで整えてくれるなんてな。けど、外の二人に危険はないなら感謝する……」
俺が言い終える前にアリウスは凄まじいスピードで剣撃を放った。
間一髪でそれを弾く。
「他人のことを心配している場合か?」
「……どーやらそうみたいだな」
頬から一筋の血を流れるのを感じる。
気を引き締めるには充分だ。
「これは何だ!? 中にユーズとやつがいるのに音も聞こえないし、中に入れない……」
ヴェルがもどかしそうに口走る。
「これは高度な光魔法で生み出された異空間……恐らくこちらからも向こうからも干渉できない仕組みになってます」
「それはつまり……」
「出るには魔法が解除される……ユーズが勝つしかありません」
その内部では剣同士、鈍い金属音を奏でながら互いにぶつけ合っていた。
「やるな、俺の動きについてこれるとは……どこでその眼を鍛えた?」
「どこでもいいだろ。少なくとも親元じゃあないが」
ディアトリス家では魔法の訓練のみならず、剣の扱いも教え込まれていた。
しかしそれは実力差のあり過ぎる訓練でありユーズは致命傷を避けて生き延びるために相手の動きを読む技術を無意識に鍛えて来たのだ。
互いに力を込めた斬撃を打ち込み合い、衝撃から後方へと跳び下がった。
「……ならこれはどうだ?」
「!」
『
計五つの
その軌道はどう動いても一発は当たるように拡散していた。
『
左手で魔力を解放し目の前に氷塊を生み出して防御、火球は氷塊に当たると消火されてかき消えた。
「これが氷の魔法というやつか。なるほど、初めて味わう」
火属性魔法が効かないと見るや、アリウスは別の魔法を発動させようと試みる。
『
次は猛烈な勢いで発射された一直線状の水の刃が放たれた。
だが近づいた水刀は瞬く間に凍りついてその殺傷能力を失ってしまう。
「! ……火だけでなく水の魔法も効かないとはな」
二つの属性魔法が通用しないことに流石のアリウスも驚いたのか、余裕をなくしたように呟く。
「ならやはりこれでケリをつけるしかない」
魔法が効かないならば剣で斬るしかないと判断したのか、アリウスは右手の柄を強く握り構えた。
「……」
「! 何のつもりだ!?」
ユーズは何と剣を鞘に納めた。
当然それを見たアリウスは困惑し、問いただす。
「止めにしよう。アンタ本当は俺のことを潰す気なんてないんだろ?」
「!! 何を言ってる……」
「アンタの適性は"光"の筈だ。でなきゃこんな妙な空間に相手を引きずり込むなんて芸当はできない。それなのに戦いで使うのは光の魔法じゃなくて火や水の魔法、要するに手加減してる」
「何の根拠があってそんなことを……それに俺ほどの魔術師ならば基本適性以外の属性魔法でも相手を十分に痛めつけることができる!」
「そして……剣も本気で俺を殺す太刀筋じゃない。急所を狙うんじゃなく、俺の動きを止めようとしてただろ」
剣の攻撃も魔法攻撃も全てユーズにその性質は看破されていた。
それを聞いたアリウスはしばし無言になった後、空間魔法を解除した。
「……!」
「興が削がれた。お前の言うとおり今日は止めにしてやる」
そう言うとアリウスは踵を返して去っていった。
その後ろ姿は何となく寂しそうな雰囲気をまとっている、何故かそう思わないではいられなかった。
「ユーズ! 大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だよ。ごめん時間食って」
心配そうにヴェルとローディがユーズの元へと駆け寄る。
「やつは……一体何だったんだ?」
「確かに襲ってくるだけならサバイバルレースだし分かりますけど……狙いがユーズだけなんて不思議な人でしたね」
二人ともアリウスのことを訝しむ。
「さぁな……けど、悪いやつじゃない。そんな気がするんだ」
「さて時間もいいところだ。そろそろ一人くらい来てもおかしくはないが……」
塔では試験官がやって来る生徒を待ち受けていた。
すると人影が一つ、塔へと近づいてきた。
「……おめでとう、君が一着だ。名前を」
「シオン・エルメージュよ」
それはティモールを炎の檻に閉じ込めたあの赤髪の少女だった。
「よし、分かった。
シオンと名乗った赤髪の少女が消えると次の到達者がやって来た。
「ワハハハ! さて、どうだ? 俺は一番か?」
そのビジュアルは筋骨隆々の青年、頭は丸刈りで上半身裸に制服を羽織るというあまりに暑苦しい姿であった。
(うっ……何だこの強烈なビジュアルの子は……本当に新入生か?)
「お、おめでとう……君は二着だ。名前を言いなさい」
「二着かなるほど、まぁほどほどだな。俺はハルク・レオギルス」
「レオギルス君……と」
試験官が記録をしていると塔には三人組がやって来た。
「さて、ようやく着いたが私たちの順位はどうかな?」
それはユーズたち、アリウスに襲撃された後は特に何事もなく無事にゴールへとたどり着いたのだ。
「ほぅ、三人組か。丁度君たちで五位までは埋まったよ」
「! ふぅ、何とか上手く行きましたね」
ローディがほっと一息をついた時、二着の男ハルクがユーズへと近づいて来た。
「な、何か用か?(な、何だコイツ……本当に同い年かぁ?)」
「お前がユーズだな? あの入学試験で度肝を抜いた!」
「え? あ、あぁ……」
「会えて嬉しいぞ。俺はハルク・レオギルス、お前のような強者には是非とも仲良くしたいと思っていた」
「そ、そうか……ありがとう」
どうも若干引き気味にならざるを得ないが、どうやら誠実な男らしい。
クラスの連中の対応とは随分な差だ。
(学園には面白い格好の生徒も居るものだな)
(何だか近づき難い見た目の人ですね……)
そして女子二人組もハルクとは若干距離を置きながらそのやり取りを見ていたのであった。
「さて、では君たちを以って
入学初日のサバイバルレース、ユーズたちはこうして順調に終えることができたのであった。
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