1章
第7話 入学式
俺は旦那様ウルゼルク・セルシウス様と奥様セーザンヌ・セルシウス様から直々の許可を頂き、正式にヴェルの護衛として雇われた。
始めはヴェルは堅苦しい身分などなくても良いとやや不満げではあったが、そもそも無茶な願いがほぼ聞き入れられたこともあってか徐々にそうした不満は口にしなくなった。
そして実際に零華の力を旦那様に見せ、納得してもらった。
これがもしカロンなら、さらなる実験に放り込まれて人間としては扱ってくれなかったろう。
俺の力を眼の前にしても変わらず接してくださる旦那様は優しい人だった。
「用意は出来たようだなユーズ」
「もちろん……でも正直まだおかしな気分だよ」
俺とヴェルはその日の朝、制服に身を包んでいた。
あの受験を終えてから二週間後、合格したという通知が送られて来た。
二週間の間はヴェルの趣味である冒険者紛いの探索で護衛をしたり、屋敷の護衛騎士の人に稽古をつけてもらったり、同じく合格したローディが屋敷を訪ねて来たり……あっという間に過ぎた。
「これから私と一緒に通う護衛がそんな気分で大丈夫か? 置いていってしまうぞ」
「それは勘弁してほしいな」
冗談を言い合いながら、俺たちは屋敷を出た。
「ヴェル、ユーズ。おはようございます」
「おはようローディ」
彼女はユーズが護衛として正式な身分を得たことに随分と安心していた、真面目な彼女らしい。
「何だか毎日ここに来ることになる……と考えたら落ち着かねぇな」
ユーズは大仰な校舎を目の前にして思わず言葉が漏れた。
周りは貴族だらけで建物は貴族仕様の豪華絢爛を絵に描いたような見た目、彼が落ち着かないのも無理はなかった。
「まぁ直ぐに慣れるさ。それに私もローディもあまりこういう雰囲気は得意でないのは同じだ」
「そうですね。私は華やか過ぎて気が引けてしまうというか……」
二人の返答に苦笑しつつも歩を進めると、校舎内の広大な会場へと案内がなされた。
次第に生徒たちは続々と集まりはじめ、空いている席に座っていく。
心なしか周りの視線がこちらに集中しているような気がしたが、忘れることにした。
「よくぞ集った若き無限の才能たち。ワシは君たちに会えてこの日をとても嬉しく思う」
壇上に上がったのはこの
王国に存在するあらゆる魔法を極め、最強の実力者として賛辞を受けている。
今はヒゲを蓄えた白髪の老人だが、若い頃は剣を握る逞しい騎士だったとも。
「君たちは努力を重ね、狭き門をくぐり抜けてやって来た者たちじゃ。この学び舎で友たちと存分に学び、存分に鍛え、そして正しき
ヨーゼル校長の挨拶が終わり、壇上には新たに教頭が立った。
「はじめまして新入生の皆さん、私は教頭のハルファスと言います」
優しげで紳士的な風貌、右に流した灰色の髪と紫の瞳に白い軍服のような格好が特徴的に映る。
「……ではこれより重要なことをお話します。皆さんの制服に付けられたバッジがあるかと思います。それをご覧下さい」
全員の意識が金色のバッジに集中したその時、ハルファスが右腕を上げ指を鳴らした。
するとバッジに紋様が浮かび上がった。
「皆さんのバッジにはそれぞれ紋様が現れていると思います。この
バッジにはそれぞれクラスの象徴となる紋様が刻まれていますが、自分のバッジに浮かび上がったそれでクラスが分かるでしょう」
ユーズは自分のバッジを眺め、その紋様が何を指すか理解した。
「
「このクラス分けは校長先生自らが生徒一人ひとりの経歴や適性、様々なデータをもとにして判断してくださいました。皆さんにとっては最も相応しい環境が用意されたということです」
ヴェルとローディも同じく
正直偶然とは思えないが……。
「ふぅ、堅苦しくて身体が痛かったな」
入学式が無事に終わり、俺たちはホワイトクラスの教室へと案内された。
式の堅苦しい雰囲気から解放され、ヴェルは手足を少し伸ばしてリラックスしていた。
「それにしても私たち同じクラスで良かったですね。何だか意図的な気もしますけど」
「それには同意だけど俺は同じで心強いよ」
ローディの意見に同調するユーズ。
というのも、やはりクラスに分けられて彼は視線を感じていた。
あまり好意的ではない類の。
「……ユーズ、気にすることはない。君が注目を浴びるのはある種必然だ」
ヴェルがフォローする、それにユーズが頷いた時、教室のドアが開いた。
「えー、ちゃんと皆席に着いてるみたいですね」
ローブを着た男性、端正な顔立ちと青みがかった白の長髪が目を引く。
どうやら教員のようだ。
「僕がこのホワイトクラスを担当するアルゼラ。是非皆と仲良くしたい。ちなみに専門は魔法学だ、よろしくね」
長髪から時折除く耳は人間のそれと異なり、細く尖っている。
それはエルフ族の特徴だが、その血を引いているのだろうか。
「さて早速だけどこの学校のルールみたいなのを教えておかないとだね。僕も堅苦しい校則は好きじゃないんだけど、皆生徒手帳を開いてくれるかな」
アルゼラ先生による学園の校則や施設に関する話が始まった。
どれも基本的な内容というか、いわゆる一般常識のようなものだったが……。
「……じゃここからこの学校一番の特徴を教える。というのも皆の将来にも関わる大事なことなのでよく意識しておくように」
すると先生は懐から金色の星型のバッジを取り出した。
クラスのバッジよりもサイズが小さい。
「これは
要するに模範的で優秀な生徒に与えられる証のようなものがあの
「監督生は卒業後も評価される称号とされてる。是非皆の将来を明るいものとするために
この話を聞いて、にわかにクラス内の雰囲気が引き締まったような気がした。
やはり皆、自分の成績には敏感なのだろう。
「さぁ長話はこんなものにして、第三演習場に移動しようか」
「……?」
当然話が全く違う方向に切り替わる。
演習場に移動とはどういう意味なのだろう。
「先生、どういうことですか? 演習場に移動ってどうして……?」
生徒の一人が立って質問をした。
「これからやるのは
「ああ……ちなみに…………ビリから10人は"
その瞬間、質問した生徒は凍りついたように動かなくなった。
どうやら入学したからといってまだまだ安心できない、そういう学校らしい。
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