【小咄】あな、微笑ましや

「──おっ、やっと切り出したみたいだ」


 立ち止まったおふたりを見て、ルーカス殿下が楽しそうにクッキーを食べております。


「団長とソフィア様、大丈夫でしょうか」

「話が続くかどうかはさておき、僕の愚弟はしっかりしてるのに会話がほんっとに下手過ぎるからね。心配する気持ちは分かるよ」


 おや。それはルーカス殿下もご存知ですか。などと思いつつ、キャロライン様の空いたカップに紅茶を注いでいく。

 すまない、と私めに小さく微笑むキャロライン様は、まごう事なきご令嬢。ああこの方、可愛く着飾って差し上げたいっお嬢様の文通相手ですしそれくらいは許されますよね大奥様っ?


「アンさん、だったね。君の見解は?」


 名を呼ばれて顔を上げる。

 この人間のせいでお嬢様が数日元気無かったと思うと臓腑ぞうふが煮えそうな心地になるが、まぁそこは想像でそのはらわたを──いえ、クエール伯爵家の利益にならないなら想像するだけ無駄だわ。やめておきましょ。


「私はお嬢様が幸せであれば良いです。お嬢様が不幸せになるのなら、クエール伯爵家総出で大奥様の本国に帰りますし」

「おっと、それはが困るかな。この国は豊かな農地で成り立っているのだし」

「……あの、それはどういう?」


 言葉の真意が分からないキャロライン様に尋ねられますが、それを話す権限は私にはありませんのでルーカス殿下を見ます。


「キャロライン嬢が王族と懇意になればそのうち教えるよ」

「団長に教わりますので結構です。あとアンさん、紅茶美味しいです」

「お褒めいただきありがとうございます、調合した担当の者も喜ぶでしょう」

「えっ、伯爵家オリジナルのブレンドですか……?」

「そうなります」


 マルが「これぇ、お嬢様専用のお紅茶ぁ」とたまに渡してくるブレンド紅茶です。

 このお嬢様の物は成長に合わせてブレンドし直してるそうなので、最早これは趣味だそうです。なお美容に良い物も入っているそうで、その上本当に飲みやすく美味しいのでたまに悔しい。


「は、伯爵家すごい……家ではこんなの出ないです」

「でしたら今度お嬢様のお友達としてプライベートでいらしてください。丁重におもてなしさせていただきますので」

「えっ良いのですか?」

「きっとお嬢様もお喜びになるかと思います」


 何より私、俄然やる気が湧きました。マルも巻き込んで彼女を磨いて着飾って差し上げたいっ!

 大奥様にも奥様にもキャロライン様のご実家にもお話は通します!


「おふたりさーん。話の腰を折るようで悪いけれど、愚弟がやったみたいだよー」


 やった、とは。まさか無体を、とお嬢様の方に視線を向けると。


 あらまぁ、戸惑いながらも麗しいお顔をほんのり染めて何かに耐えるような微笑みのお嬢様がそこに。

 ああっお耳と尻尾が出そうなのねソフィアっ本当に健気でかわいい!

 そしてウィリアム殿下、アレは絶対──、


「いやぁ初々しいね、僕も恋がしたいなぁ」

「殿下は隣国から縁談が届いているとお聞きしておりますが?」

「届いているだけだよ、僕だって選ぶ権利くらいあるからね。まぁ、第二王子妃教育頑張ってるソフィも候補に、」

「殿下。今はその話はご自重ください」


 キャロライン様、食い気味に止めましたね。そのキレの良さは騎士だからですか。

 それとも。


(あな、微笑ましや)


 私は余計な事は口に致しません。

 まぁ、精霊様がこの2組をよく見守ってくださるでしょう、とは思いますが。


(良い方に向くかどうか、皆様あたたかい目で見守ってくださいな。私、アンからの願いです)

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