第15話 TRUE END

 俺と彩夏があの日別れたことは、周知されていた。俺たちがまったく会わなくなった、一緒に登下校をしなくなったことに疑問を抱いた互いのクラスメイトにそのことを聞かれ、互いに「別れた」と答えたのだ。

 肝心の別れた理由に関しては「なんか、合わなかった」とか「意見の食い違いで」とか適当な理由を俺は言っていたのだが、こういう話は、男子より女子の方が気になるもので、彩夏は自分のしたことを隠すには結構な労力を有すると琴音先輩が言っていた。

 それに関しては俺も賛同している───なぜなら、必要以上に彩夏を追い詰めたせいで、彼女は『自分もそして、彼氏も悪くない』もしくは......いや、こっちは彩夏の性格上、候補には挙げられていないだろうが『どちらも悪い』と思わせる理由を考える必要があり、それは、すぐには納得できないような理由になるのが明白だったからだ。

 実際、俺も「なんか、合わなかった」だけで、質疑応答が終わったわけではなく、もっと具体的な回答を求められ、困ったから───琴音先輩の話を信じるなら、彩夏は俺以上の苦労を味わっていたことになるのだ。


「それで?なんと言って、理戸くんはその質疑応答を終わらせたんですか?理戸くんのことだから本当のことは言ってないんですよね?」

「まぁ......確かに今回の件、まったく俺に非がないわけでもないので、彩夏を貶めるようなことはしませんよ。『俺に魅力を感じなくなったからフラれた』そういえば、特別親しくもないクラスメイトでも、俺のことを憐れんで、それ以上のことを聞こうとはしてきませんでしたよ」

「両者が悪者にならない、クラスメイトに特別親しい友達がいない理戸くんだから出来る解決方法ですね」

「先輩?いくら事実でも、傷つくものは傷つくんですからね?」

「ふふっ、ごめんなさい、でも、理戸くんだから出来たことは事実なんですよね。彩夏さんみたいに友達がいると味方がいるということですから、あちらからしたら、理戸くんが敵になりますね」

「まぁ、それで何か危害を加えられた時の為に、あの日の録音が俺のスマホに入っているので」


 あの日の日曜日、公園での俺たちのやりとりは俺のスマホに録音されており、彩夏の行動や発言の証拠として保存されている。


「最初からそれを使わないなんて、甘いんですね、理戸くんは......結果はどうあれ、惚れた弱みでしょうか」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる琴音先輩。


「あ、そうだ、聞きそびれていたことがあるんですが......先程、話題にも出ましたが、私のことを彩夏さんに話してたみたいですけど、どんな話をしてたんですか?彩夏さんが嫉妬するほどに、熱く語ってくれていたんですよね?」

「話を盛らないでください......俺はただ、友達との出来事を話すように彩夏に話していただけです。熱く語るなんてしてませんよ」

「例えば?」

「今日、先輩とこんな話をしたとか、こんなことしてたとか......一応、彼女がいる身で女子と二人きりになることには罪悪感が少なからずはあったんで、身の潔白を証明しているつもりでもあったんですよね......逆効果だったみたいですけど」


 だから、今回の件の引き金は俺で、もしかしたら、彩夏は正常な女の子なのかもしれない。俺の軽率な発言の所為で、不安を煽り、今まで気にしなかったような、将来に対する不安を感じさせてしまった。その結果がこの在り様なのだとしたら、もし今回の件で悪者を選ぶ必要があるのなら、それは俺になることだろう。


「もしそうだとしても、彼氏である理戸くんを信用せずに、すぐに俊也くんとも付き合いだしたのは擁護できることではありません。全部が全部、理戸くんが悪いというわけでもないでしょう......お互いに非があった、それが今回の件の結論で良いと思いますよ」

「そういうもんですかね」

「そういうものですよ」


***************************


『もしもし』

「突然、ごめん。あの日、ちゃんと言えてなかったら......今回の件、俺にも明らかに非があったと思う、だから、ごめん」

『あ、謝らないで!理戸は悪くないの!私が信じてあげられなかったのが悪いんだから!』

「じゃあ、お互い様だな」

『......理戸はそれでいいの?』


 終えてみれば、琴音先輩も言っていたように、先程俺が口にしたように、お互いに非があったのだ。


「いいよ、そういうことなんだし」

『じゃ、じゃあ、じゃあさ......図々しかもしれないけど、もう一度──』


***************************

 

~数十年後~


「ねぇ、お父さん」

「ん?どうしたんだ?」

「お父さんとお母さんは、どこで出会ったの?」

「高校だよ。高校で出会って、高校で付き合って、今に至る」

「やっぱり、出会いがあるのは学生のうちなのかな~」

「そんなことはないさ。母さんとたまたま高校で出会っただけで、もしかしたら、それ以降かもしれないし、それ以前に出会っていたかもしれなれないんだから......というかどうしたんだ?急に」

「いや、最近テレビで独身で悩んでる芸能人増えたなぁって、出会いがないって......私彼氏できたことないし、好きな人がいないから不安になっちゃって」

「......芸能人に関しては、仕事で忙しすぎて恋愛に気を回す暇がない人だったり、一人の方が気が楽って人だったりがいるから、芸能人になる気がないなら参考にしなくてもいいと思うぞ......というか、結婚はしなくちゃいけないとか、早くしなきゃいけないもんじゃないんだ。したい人が見つかって、できるようになったらでいいんだ......それに、そんな早く家を出てかれたら、お父さん寂しくて泣いちゃうぞ」

「あはは、お父さん、私のこと好きすぎ!」

「どうしたの?二人とも楽しそうにして」

「お父さんが、私のこと好きすぎって話してたの!」

「そうなの?ふふっ、ちなみにお父さん?私と椿つばき、一番好きなのはどっちかな?」

 

 二人して、そっくりな悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺の返答を待っていた。

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