第14話 TRUE
「......それは───判断するため」
「判断?」
『判断』......その彩夏の回答は、俺が理解するには明らかに言葉が足らず、それは先程から隣で俺たちの経過を見守っている琴音先輩も同じようで、俺が先輩に視線を向けると首を横に振っていた。
「私が安心して理戸と関係を続けていくために必要だったの......理戸が私と琴音先輩、どっちを愛してるか」
「は?」
「だって、理戸、琴音先輩の話をよくするんだもん。確かに理戸は友達が多くはない......というか、いないようなものだから、琴音先輩のことしか話すことがないのかもしれないけどさ、私としては心配だったの!」
俺たちが理解していないのを察してか、詳しく説明をしてくれたのはいいのだが、やはり、彩夏の行動は理解ができなかった。誤解のないように言っておくと、彩夏の心配するその気持ちは理解していて、そして、その心配の原因となった俺の軽率な発言は反省すべき点だということは理解できている。
だけど────。
「それで、判断か......判断して、もし仮に、俺の好意が彩夏より先輩に向けられていたとしたら、彩夏はどうする予定だったんだ?」
「......別れてたと、思う」
「思う、じゃないよな?思うだけだったら、俊也くんをストックとして、自分の手元に置かなかった......違うか?」
「そうだね、うん。理戸の言う通りだよ」
「だったら、それこそ俺と別れて俊也くんと付き合えば、安心して付き合えただろう。先輩のことが好きかもしれない男を切り捨てた方が、将来は安心だろ」
「俊也くんのことは好きだよ?でも、彼はあくまでストック......理戸の代役なの。だから、理戸に別れる気がないなら、別れたくなかったの......理戸の方が好きなの。でも、先輩の方が好きかどうか不安を抱えながら付き合うのは嫌だって気持ちが、あったから、だから判断する必要があったの。それを判断するのが今日の予定だったんだけど────バレてるとは思わなかったなぁ......」
「俺の質問への回答になってないだろ。俺が聞きたいのは、なんで俺と俊也くん二人と二か月間付き合い続けたのかってことだ」
「あはは、そうだよね。ちょっと、混乱してるみたい......えっと、こんなことを言うと、また怒らすかもしれないけど......練習のつもりだったんだ」
『判断』の次は『練習』......だが、先程とは違い、まったくその言葉の理由が分からないわけではなかった。ここまでの彩夏との会話を考慮すれば、推測するのは容易なものだった。
「これからも、多分、誰かと結婚するまで、二股を続けていく予定だったんだろ?そのために、バレる可能性を少しでも下げるために、俺と俊也くんで練習をしていたんだろ?」
「理戸と別れることになったら、必要なことだったからね......」
「別れなくても、彩夏の場合、必要なことだっただろ」
きっと、俺が先輩から何も教えてもらわなかったら、今日プレゼントをもらい、俊也くんのことを従弟と紹介されたら、俺はその言葉を信じ、彩夏を信じ、関係を続けていたことだろう。彩夏に騙されながら、二股をかけられながら、彼女と一緒に時を経ていたことだろう。
「最後に、彩夏に確認したいことがある」
「......なに?」
「俺は、俺の中ではもう彩夏とは別れることが確定してるんだけど、聞きたいのはその後のこと。彩夏は、別れた理由をどう、友達に説明するんだ?」
「......どうって言われても」
「困るよな。だって、当初の予定は『彼氏が先輩と浮気していたから』ってことにするつもりだったんだもんな」
「......」
「そして、現状、そのカードは使えなくなった。なら他にどう説明するか『彼氏が酷いやつで別れた』か?結局、俺が悪者だな。ちなみに『私が悪いんだ』なんてことを浮気していたことを伏せて、具体的な話を伏せて言った場合、彩夏の友達は彩夏に原因があったとは思わないだろうな......俺に非があるとして、結局は俺が悪者になるんだ」
「......それは、私の所為じゃ──」
「そうして、自分のことを信じてくれる友達を、また騙すんだな」
「だ、だって、ほ、本当のことを言ったら、私、みんなに嫌われちゃう!」
「別に、彩夏から言う必要はないんだけどな。俺と俊也くんが証拠見せて回れば、それで済むことだし」
「やめて!!お願いだから......それだけは、やめてください!」
頭を下げて懇願してくる彩夏から視線を外し、琴音先輩の腕を掴んで、連れて歩き出す。
「り、理戸くん?」
「先輩を置いてったら、彩夏に優しさを掛けようとするでしょ。先輩は、放っておけないでしょ......今は、一人で反省させてやる時間が彩夏には必要なんだ」
「ごめんなさい!本当に、ごめんなさい!!」
俺が背を向けても、尚も頭を下げてくる彩夏。その謝罪の意味は何だろうか......少しでも、俺との関係の再構築を考えてくれているだろうか。それとも、自分の立場が不利になるような行為を止めたい一心なんだろうか。
「口では、好きといいながら、簡単に切り捨てようとする......勝手な憶測で、俺のことを信じもせず、判断する前に代役を立てるとか......そんなやつの頼みなんか誰が聞くんだ」
俺は、泣き崩れた彩夏を無視して、歩みを速めた。目的地なんてないけれど、とにかく今は彩夏と離れたかった。
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