第13話 TRUE

「どうして......ここに?」


 彩夏の問いかけに、俊也くんは答えようとしなかった。

 だから代わりに俺が彼に問いかけた。


「俊也くん、最初の会話がこんな形なのは申し訳ないし、こんなことを聞くのもあれだけど......彩夏とはいつから?」

「えっと、二カ月前からです。誰にも知られたくない、内緒の関係だと」

「そうなんだ......二人はどうして付き合うことになったの?」

「同じ委員会に所属していて、そこで、よく話すようになって」


 俺は、俊也くんの話を聞いて、整理した。


 そもそも俺と彩夏が付き合ったのが、二年になって少し経った頃──だから、同じ委員会に所属して、なんて青春的なことは出来なかった。

 そして、彩夏はその委員会で、俊也くんに出会い、次第に惹かれ合い恋人になったと。そう、思っていたと俊也くんは言った。


「まぁ、俺と付き合いながら、俊也くんのことを好きになってしまったことは百歩譲って許すよ。それは彩夏の自由だ──結婚しているわけでもないしね。でも、それなら俺と別れてからにして欲しかった」

「そう......だよね。うん、理戸が正しいよ」

「なら、なんで」

「怖かったの......」

「怖い?」

「テレビとか見てたら、結婚してない女性の人......行き遅れの人たちが出てて、孤独で寂しい、でも出会いが無いみたいなこと言ってて......私、そうはなりたくなくて。孤独に生きて、孤独に死ぬなんて絶対嫌で」

「......仮に、俺と別れてもいいように代役が、ストックが必要だって思ったのか」

「うん」


 俺は何も言えなくなっていた。

 何を言うのが正解なのか、それが分からなくなったのだ。


「私の、弟を、代役とか、ストックとか......ふざけんなよ」


 知美先輩の低い声が、俺の耳に届く。

 小さい、けれどしっかりと意思をもった声だった。


「人の価値観は、人それぞれ......だから、孤独が嫌とか、そういうのには、何も言わない。でも、それで、他人を巻き込むな、傷つけるな!」


 知美先輩が、弟の為に怒っていた。

 

「彩夏さん、あなたが傷つけたり、騙したのは、理戸くんと、俊也くんだけではありません。知美ちゃんも、それにあなたのクラスのお友達もなんですよ?そのこと自覚してますか?」

「......はい」


 彩夏は怯え切っていて、言い訳なんて吐けないでいた。


「俊也、からは、何もないの?」

「言いたいことは、みんなが言ってくれたよ。だから、俺からは一つだけ......今まで、ありがとう、楽しかった、だから、今回の件は──残念だ」

「うっ......うっ......」


 こういう時、怒られるよりも優しさを向けられる方が心が痛くなるって本当なんだろうな。


「......姉ちゃん、帰ろうぜ」

「え、でも、まだ」

「いいよ。別に、自分のしたこと否定してるわけじゃないんだ。俺の言いたいこと、聞きたいことは終わったんだし」

「ちょっ、待って!」


 俊也くんは、小柄な知美先輩を楽々持ち上げ、お姫様抱っこの状態をつくりあげた。

 知美先輩が恥ずかしそうに、顔を赤らめ抵抗するが、その抵抗虚しく俊也くんは俺たちに一礼すると、自宅に向けて歩き出した。


「俊也くん、なんだかんだ知美ちゃんのこと大好きなんですねぇ~」

「駄々こねる子どもを無理矢理連れてったように見えましたけど?」

「知美ちゃんが、あんなに怒って、泣いているところを、もう見たくなかったのでしょう──それも、自分のために、彩夏さんごときの所為で、ね。この後、感謝の意でも込めて、お菓子でも買うつもりでしょうね。それとも、知美ちゃんが、泣いてる俊也くんを慰めてるかもしれないですね」

「素晴らしい、姉弟愛ですね、なんだか羨ましいです、それに、馬鹿らしくなってきます......今、この状況が」


 彩夏は、泣いて、俯いて、そのまま動こうとしなかった。


「彩夏、俊也くんと付き合い始めたのが二カ月前って言うのは、正しい情報か?」

「......うん」

「なら、どうして、今回だけ琴音先輩に足止めを頼んだんだ?俊也くんとは、今までも何回か一緒に出掛けてたんだろ?」

「......それは──」




──────────────────────────

あとがき


 こういう詰めていくシーン、表現するの難しいですね......。


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