第11話 Another?

 先程から、彩夏さやかが険しい表情を浮かべている。

 ファミレスに入り、注文した料理を待っている間に彼女のスマホに届いたメッセージを見てからのことだった。

 

「大丈夫?なんかあった?」

「え、んーん......ちょっと、友達が彼氏とトラブってるみたいでさ、相談されてたの」


 そんなタイミングで、俺のスマホにも誰からかメッセージが届いた。彩夏もスマホとにらめっこしてることだし、となんの躊躇いもなくメッセージを確認すると、琴音先輩からのメッセージだった。


『俊也くんに確認したところ、彼女だということを認めました。聞くと周りには内緒にしているそうなので、もしかしたら、彩夏さんに謝罪の連絡をしてるかもしれません』


──あぁ、なるほど。


『あと、昨日私が隠れて撮影したものを知美ちゃん経由で俊也くん送っているので、怪しまれてるかもしれません。知美ちゃんが在宅しているのは把握しているはずですから』

 

 要するに、琴音先輩は昨日、彩夏と俊也くんが二人でいるところを撮影していた。それを姉である知美先輩から弟に送ったが、それを撮影できるのが姉ではないことを把握している弟は、撮影者が別にいることを彩夏に報告していると。


『状況は分かりました。彩夏が今、険しい表情をしているので、おそらく、先輩の予想通り、俊也くんから何かしらのメッセージが送られてきているんだと思います。それで、一つ聞きたいことがあるんですけど、失礼なことを聞くんですけど、知美先輩って、琴音先輩以外に友達います?』


 と、返信に集中していると、いつの間にか、彩夏が俺のことを凝視していた。

 

「どうし──」

「お待たせいたしました」

 

 店員が俺の言葉を遮り、料理を提供してくれた。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」


 そして、店員が去るのを確認して、俺は先ほど言いかけていたことを再度聞く。


「どうしたんだよ、俺のこと睨んで」

「あ、ごめんね。さっき言ってた友達の彼氏が浮気してたみたいで『どうしたらいいかな?』って聞かれたから、もし、理戸が浮気したらって考えてたら、無意識に睨んじゃった」

「そういうことか、大変だな、その友達」


 さっきの目......琴音先輩からの返信を確認しなくても分かる。知美先輩は、琴音先輩以外に友達はいない......少なくとも、俊也くんが知っている範囲では琴音先輩が有力候補に挙げられてしまうだろう。それを彩夏に伝えているのであれば、俺に二股をしていることがバレているのを疑うのは当然のことだろう。


「理戸の方は大丈夫なの?熱心にメッセージ送ってたけど」

「熱心って言うほどじゃないよ。琴音先輩が『驚いた??』ってメッセージ送って来たからさ。俺の足止めをしていたことを教えてもらってたんだ」


 敢えて、この状況で琴音先輩の名前を出してみた。

 

「そ、そうなんだよね。おかげでサプライズ大成功!」


 彩夏が、俺の足止めを琴音先輩に頼んでいたことは、俺の知りえない情報だ。だから、少しは信憑性を帯びたものとなったはず。


「あ、そうだ、この後、行きたい場所があるんだ」

「え?どこどこ?」

「行ってからのお楽しみ」


 行きたい場所、それは、俺と彩夏の恋人としての関係が始まった、あの公園。

 その公園で、今日、俺と彩夏の関係が、終わる。


 

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