第9話 Another
昨日──いや、正確には今日なんだけど、中々眠りにつけなかった俺は、
その為、早起きなんてすることは当たり前のように諦めていたし、
「おはよう!それと、誕生日おめでとう!」
寝不足の俺の脳に、彩夏の無駄にテンションの高い声がよく響いた......新手の奇襲か?
「ありがとう......でも、どうして?」
「ん?そんなの、私が一番に祝いたかったからに決まってるでしょ」
少し恥ずかしそうにそう言ってくる彩夏に、少しイラっと来たがそれを決して表情には出さない。
「なんか、照れるな」
実のところ昨日、先輩と電話をしている時に日を跨いでいたので、日付が変わるのと同時に祝ってもらっていたので、彩夏が最初なわけではないが、まぁ、ここは機嫌を取っておこう。
「あ、それとこれ!プレゼント!」
これが例の......いや、今だけは余計なことを考えないようにしないと、少しでも表情に出したら、どう思われるか分かったもんじゃない。
「え、ありがとう!なんだろ......」
至って自然に、喜んで見せる。
「服?」
「うん!従弟の好みが入っちゃってるから、気に入ってもらえるか分からないけど」
『従弟』という言葉を聞いて、更に琴音先輩の話に信憑性が増した。
「わぁ、凄い、俺の好みそのままだ!」
「ほんと?!よかったぁ~」
俺の感想を聞いて、安堵した様子の彩夏。
「本当に、ありがとうな」
「いいんだよ、年に一回の大切な日なんだから」
もし、先輩からあの話を聞いていないか、聞いていても信じなかったら、俺は今の彩夏の笑顔に騙されていたことだろう。
浮気は俺の勘違いで、彩夏は俺の彼女で、愛し合っていて、そんな幸せな思考をもって、そして、騙されていたことだろう。
「せっかくだから、今日はこれを着て、デートしようかな」
「うん!行こ行こ!!」
俺の言葉に気分を良くして、テンションが上がる彩夏。その彩夏が、夏になるにつれて暑くなってきたこの季節に、長袖の上着を着ていることが気になった。
そのことについて聞いてみると────。
「あぁ、これはね......」
寒がりだという話も聞かないし、なんなら、以前私服で会った時は半袖だったのに......という些細な疑問だったのだが、それにはちゃんと意味があったようで、彩夏が上着のチャックを下ろすと、中から、俺の手にあるTシャツとお揃いのTシャツが出てきた。
「ペアルックなの......どうかな?」
もし、もう一人の彼氏に見つかったらどうするんだ、とか、二着買う時もう一人の彼氏に何て言ったんだ、とかそんな言葉が俺の口から出てきそうだったがそれを必死に抑えて───
「嬉しいよ!」
──と、無邪気に喜ぶ彼氏を演じて見せた。
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