第7話 Another

 最初は乗り気ではなかったが、次第に琴音ことね先輩に感謝している俺がいた。


「いい顔になりましたね。うん、安心しました」

「先輩のおかげです。今日はありがとうございました」

「いえ、私は何も!」


 先輩は謙遜してるが、本当に先輩がいなかったら、連れ出してくれかったら、俺は腐っていたことだろう。


「ねぇ、理戸くん?」


 二人で観覧車に乗っているために向かい合っているので、視線がしっかりと合った状態で話をしている。


「どうしたんですか?改まって」

「そんな、分かりきったことを──と、キミは言うかもしれませんが念のために。彩夏さんのことを今現在、どう思ってるんですか?」


 どう、というのはこれからも恋人の関係を続けたいか否か、好きか嫌いか、そういったことなのだろう。


「本当に分かりきったことですね。別れます。嫌いかと言われれば、無関心というか、どうでもいいっていうのが俺の答えです」

「......それならば、話すべきですね」


 そうして先輩は、今回の件について、知っていることを話してくれた。

 先輩は、彩夏に俺の足止めを頼まれていたこと、クラスの女子は何も知らないこと、今日はあの男と俺への誕生日プレゼントを買いに行っていることを。


「クラスの女子は知らないって言うのは?」

「彩夏さんがサプライズプレゼントを用意しようとしているのは知ってます。ですが、あの男の子のことは従弟と聞かされています。私も同じでした」

「......じゃあ、あの男は彩夏の従弟なんじゃないんですか?」

「残念ながら違います......私、知ってるんです。あの男の子のこと」

「......え?」


 意外な言葉が先輩の口から出て来た。


「彼──各務かがみ 俊也としやは、私の親友の弟なんです。以前はよく一緒に遊んだものです」

「だから、彩夏の従弟ではないって知ってるんですね?」

「はい。実はさっき、メッセージを送って確認してみたんです。『霧谷きりたに 彩夏さんって女の子知ってる?』って。そしたら『誰?』って言われちゃいました」

「そうですか.......。なるほど、それでクラスの女子は知らないと。彼女たちも、彩夏に騙されて協力させられてたということですか」

「そういうことです。知らなかったとはいえ、こんなことに協力してしまって......ごめんなさい!」


 頭を下げる先輩に「謝らないでください!」と声を掛けると、ゆっくりと顔をあげてくれた先輩。


「先輩は何も悪くないんですから。謝るよりも、もっと、知っていることがあれば教えて欲しいです」

「そうしたいのはもちろんなんですが、私も全てを知っているわけではないので......これは推測になりますが、弟くんは何も悪くないと思うんです。後から、親友の知美ともみちゃんに聞いてみますが、おそらく純粋に付き合っているだけだと思ってるんだと思います」

「その割には今日、だるそうにしてましたね」

「彩夏さんがどう伝えているか分かりませんが、他人のプレゼントを買う手伝いなんて、ましてや他の男の為のものなんて嫌でしょう。照れ隠しというのも否定できませんけどね」


 どこか懐かしむような表情をする先輩。


「じゃあ、今回の件は、先輩の推測だと──彩夏単体での犯行と」

「そうですね。私はそう思っています」


 たとえ先輩の推測だとしてもその可能性が知れたのは良かった。なんの悪意もない人たちを疑うのは、いいこととは言えないから。

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