第4話

 土曜日、琴音ことね先輩に指定された集合場所は、何となく想像は出来ていた彩夏さやかの家から近い公園だった。


「さぁ!では行きましょうか!」

「なんか、楽しそうっすね」


 帽子を被り、マスクをして変装しているつもりであろう先輩は、なぜか遠足に行く子どものようにウキウキとしていた。


「そんなことないですよ。これから修羅場を目の当たりにするんですから、心臓がどきどきしてます」

「全くそうは見えない──というか、既に決めつけるのはやめてください。今日、この目で確認するまでは、認めたくないんで」

「とは言いますけど『友達と遊ぶ』と言われているのに、その相手であろうお友達の女の子からも声を掛けられているのに、尾行をしようとしている時点で、結構疑ってますよね」


 その事を言われてしまっては、返す言葉も見つからない。確かに、彼女を信じるのであれば、信じたいのであれば、今日尾行をする必要はない。以前のように、放課後とか、土日とかの怪しい様子の時にすればいいことなのだ。


「......今日、彩夏が本当に友達と遊んでいるだけなら、もう、疑うのはやめます」

「ならもし、今日、男の子と遊んでいたらどうするんですか?あなたに嘘を吐いて、クラスメイトまで味方に付けている彼女の本性を知ってしまったら」

「別れます。それだけです」


 先輩は俺の返答を聞くと、どこか寂しそうな表情で「そうですか」というと、彩夏の自宅に向けて歩き出したので、俺もその後を追った。


***************************


 彩夏の自宅の近くの物陰に身を隠していると、少しして、彼女が出てきて、どこかへ歩き出したので、俺たちもその後を付いて行く。通報された時の言い訳を考えながら、歩いていると、彩夏が一軒の家の前で、立ち止まった。


「あそこが友達の家か......」

「或いはキミが見た男の家ですね」


 先輩は、俺が見たくないものから目を背けるのを許してくれない。


「出て来た......」

「あれは......男の子ですね。どうですか?キミの見た男の子で間違いないですか?」

「......」


 俺は、放心状態で、彩夏と男が話しているところを眺めている。男はどこか怠そうに、彩夏は申し訳ないとヘラヘラと謝っている様子が見て取れる。


理戸りとくん!」


 先輩の呼びかけで何とか正気に戻ることが出来た俺───それでも、心臓の鼓動は高鳴り続けていた。

 そんな俺の気なんて、当然ながら知ることなんて無く、二人で仲良く歩き出した彩夏たち。


「ほら、しっかりしてください!追いかけないと!」

「......俺、帰ります」

 

 このまま、あの二人を尾行するなんて出来る気がしなかった───思ったよりも、精神的ダメージが大きいんだな。


「理戸くん......一緒に見極めましょう。まだ、浮気と決まったわけではないでしょう?──そう、いつものキミなら言うはずです」

「無理ですよ。だって、決定打ですよ、こんなの。心に致命傷を負いましたよ。友達と遊ぶって、クラスメイトの女子と遊ぶって......なのに、実際には男と会ってる。これで、まだ信じろと?」


 死んだ目をしているであろう俺の腕を無理矢理引っ張って、連れてこうとする先輩───なんで、ここまで協力してくれるんだろう。

 

「確かに、このまま尾行を続ければ、見たくないものをみることになるかもしれません!でも、理戸くんも言ってたじゃないですか。彩夏さんが浮気をしていないのに別れたら最悪だって。だから──」

「分かりましたよ。でも、最後まで尾行できる保証はないですから......見ての通り、既に限界なんで」


 結局予定通り、俺たちは彩夏の尾行を開始した。

 

 二人の行先はここら辺では一番大きいショッピングモールで、他のお客も多いため、何度か見失いそうになりながらも尾行していたが結果──最後まで、昨日見た彩夏の女の子の友達は姿を現さなかった。


「二人で買い物して、男の子がちゃんと彩夏さんを家まで送り届けて解散。浮気をしていたというには、少し物足りない感じですね」


 何だか、少し残念そうな表情を浮かべる先輩。

 

「彩夏がもっと、あの男とイチャついて欲しかったみたいな言い方ですね」

「その方が話が早いですからね。あんな中途半端に密会されるより、私はその方が割り切りやすいなって思いますから」

「......それはそうですけど......って、あ、そういえば、明日会う約束してたんだ。なんか憂鬱になってきた」

「昨日はあんなに嬉しそうにしてたのに───」

 

 ところで、と続けて先輩は話を続ける。


「理戸くんは今、彩夏さんのことをどう思ってるんですか?」


 

 

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